厄災浸蝕都市 3
数時間後──サルワは床に座り、まだ都市を上から眺めていた。
その眼はまるで宝石箱でも眺めるような、楽しそうな眼であった。というのも彼女は支配の厄災。ようやく自分の支配領域を手に入れたのだ。こんなにボロボロにするつもりはなかったのだが、憤怒の厄災を都市に投入すると決めた時点である程度、都市が破壊されてしまうのは予測出来ていたことだ。
「ふふふ」と笑みがこぼれるほどに良い気分で居るサルワに近づく影があった。
「アナタの言う通り、アナトもアムシャも来ませんでしたわね。しかし、神都を制圧した今、次はどのように動くつもりなのかしら?」
そのように尋ねて来るのはファールジュであった。
彼女は冒険者ギルド連合本部の裏切者であり、サルワの配下には成っているモノのここから先の事は知らない。世界支配というまるで子供のような幼稚でありながらも、サルワであれば馬鹿げた話ではない目的を持っているのは知っている。
しかし、上手く神都制圧出来たら配下になるという話だった。ゆえにファールジュは神都制圧から先の計画は何も教えられていないのだ。
サルワはクククッ、と馬鹿にするように嗤いながら答える。
「詳細な内容はまだ決まってない。だがやることは決まっている。ほかの厄災……つまり我が兄弟を吸収して私の力の増強。そしてアナトとアムシャを殺す。しかしこれは私がやるべきタスクだな。お前とイルゼは別に行動してほしいしな」
そうしてサルワは思考を巡らせる。
アナト、アムシャ以外にもメイガス・ユニオンは多少、厄介な組織だ。冒険者ギルド連合も本部が壊滅しただけで組織自体が消滅したわけじゃない。ほかにも大国が動き出すだろう。
これからの敵は組織ではない、世界だ。
「まずは世界の動きを読みつつ、可能な限り大国を取り込む……のは難しいか?」
いいや、不可能ではないはずだ。真正面から大国に勝負を挑み、勝って屈服させるのは不可能だろう。だが、交渉、取引……あらゆる方法を用いれば案外、いけるかもしれない。
「まっ、大きい仕事が終わった後だ。計画は成功に終わったが、無傷ではない。消費した魔力を回復して、肉体も休ませて……。とりあえずまだ三日、四日は何も考えず、ボーッとしておけ」
そう言ってサルワは再び座り込む。
神都制圧を成功させたサルワのことだから、今後の事も勿論考えているのだろう。そう思っていたら結構、大雑把にしか決まっていないことに少しがっかりしたというか、あっけないというか、とにかく少しサルワのイメージが幻滅したファールジュであった。
「さて、結果はこのように終わったか」
それは神都もとい厄災侵蝕都市の上空……そこに重力を無視して浮かんでいるのはアムシャであった。
「サルワもアナトも今後の成長に期待だな。だが最も面白いのは──」
彼は遠くの方を見る。
「トーゼツ・サンキライ。やはりアイツが調和神アフラの計画の柱か……。だが、今の段階ではまだ評価は難しいか。しばらくやることもなし。トーゼツをしばらくは追っていくとするか」
そうしてアムシャはそのまま鷹のように素早く滑空していく。




