厄災浸蝕都市 2
射出された槍はソニックブームが発生し、大通りに面している建物が崩壊していく。またその衝撃波は化け物さえも跡形もなくミンチになっていく。だが、そのミンチになった肉は槍に纏わりつく炎の熱によって蒸発し、灰すらも残らず消えていく。
それは最終的に神都を守るために作られた外壁に突き刺さる。やはり、神々が造った防壁だからだろうか。周囲の建物とは違い、ソニックブームで壊れることはなかった。しかし、突き刺さった個所から一気にヒビが入り、防壁が大きく裂けていく。ガラガラと瓦礫となって外壁は崩れていく。
「さて、この調子で化け物を一掃しつつ、外壁を壊していくか。あとは──」
どうやら彼女はとっくに気づいていたようだ、アナトは化け物たちにバレない様に建物の影に隠れていたアナーヒター達のいる方へと意識を向ける。と言っても、その建物も半壊してしまっており、隠れ切れていない状態になっているのだが。
「お前ら、神都から脱出するつもりだろ?今なら簡単に出れるぞ」
「お、おう。そうだな、だったら俺はこの戦場から離脱させて貰うぜ」
そうしてベスは歩き出す。
「お、俺も逃げるとするかな。俺みたいな奴は役に立つ事はないだろうし、逆にお邪魔になるかもしれないしな」
べスについていく形でテルノドもまた去ろうとする。しかし、アナーヒターとエイルの二人は動こうとしない。ベスは振り返り、二人に問う。
「お前ら、行かないのか?」
「もちろんだ。私がお前らについてきていたのは、お前らを逃がすため。私はトーゼツと合流しないといけないからな」
アナーヒターはそのように言うのだが肉体疲労、魔力消費……この戦場を生き残るのは不可能なぐらいの状態だ。しかも、その表情は明らかに疲れ切っており、精神的にもかなり参っているようだ。
「私もまだ怪我人が居れば助けなくちゃいけませんし、復活可能な死体であれば蘇生させないと!医神と呼ばれる私だからこそ出来ることがまだあるはずですし!」
エイルもここに残るつもりのようだ。
「はぁ……お前ら…」
他者を重んじるその気持ちは尊いものであり、人として素晴らしいのだろう。しかし、この現状において今大事なのは自身の命だ。ここで無駄死にする可能性が高い以上、ここはさっさと離脱して、次に繋げるために生きる事が重要だ。
ベスは二人を説得しようとしたその時、アナトの方が先に口が開く。
「あとは私に任せておけ。トーゼツは必ず私が連れて来る。エイルも一般市民の救助を今は諦めてくれ。ここはもう私たちの知っている神都じゃない。人は狂気に侵され、厄災が溢れる場所。もう何が起こるか分からない。ここはサルワの支配領域、言うなれば厄災浸蝕都市だな。戦えない者は邪魔でしかない。それでも神都に残るっていうんだったら正直に言うぞ、ここで死ね。消息不明になる方が気分が悪いからな」
そうしてアナトは再び神都──いいや、厄災浸蝕都市へと戻っていく。




