計画完了 4
今にでもトーゼツが振り解いてしまいそうな、彼の腕を掴む手をミトラはもっと強く握り、彼が自分をおいていかないようにして、眼をまっすぐ見て彼女は言う。
「今のアンタじゃあ、絶対にサルワには勝てない」
「どうして、そう言える?」
その言葉は重々しく、やはりこれはトーゼツではない。
そして、その発言にはこのような意味が含まれているとミトラは感じた。魔力切れで戦うどころか、動けなかった雑魚が俺が勝てないと断言できるのか、と。
全て事実だ。
ミトラは弱い。
トーゼツの強い意志、諦めない不屈の心……それらに比べれば剣聖という職はちっぽけに感じるだろう。だが、それは普段のトーゼツであれば、の話だ。
今のトーゼツであれば──
パチンッ、と軽い音は響く。
それは、トーゼツの頬をビンタする音であった。突然の行動にトーゼツも、トーゼツを止めるためにしかみついていたロームフさえも眼を丸くしている。
「お前の理想はなんだ?」
ミトラは問う。
「お前の理想は敵を殺すことなのか?」
その言葉が怒りに支配されていたトーゼツの頭の中に突き刺さる。
俺はあの時……エルドが俺たちを守って死んだ時に改めて知ったはずだ、己の内を。自分が何をしたいのか、自分の理想はなんだったのか、どうしてここに立っているのか。
そうだ、ミトラの言う通りだ。
しかし、まだ心の中にサルワに対する感情が強くあった。
それに気づいたのか、さらにミトラは問い続ける。
「みんなを守ること、助けることがお前の原点なんだろ!?まだこの都市の中には避難が終わっていない市民もいれば、戦う続けている冒険者もいる!ソイツらを無視して、周りを巻き込んで、それでもサルワと戦いたいっていうのか!?」
その言葉でようやくトーゼツの靄が晴れる。
「……そう、だな。俺が間違っていた」
トーゼツは踵を返し、サルワのいる神都の中央を背に歩き始める。
まだ怒りはある、憎しみもまた──
だが、今はその時ではない。
今回は失うモノが多過ぎた。そもそも後手に回り過ぎている。
情報が足りない。
力が足りない。
「ここは……一度、神都から脱出するべきだな。ここでの借りは必ず…………!」
街のあちこちで人々が叫んでいる。阿鼻叫喚の地獄絵図。
しかし、サルワは嗤っていた。
「はははははははははァ!!これが今の私の力!兄弟達を吸収し、手に入れた最高の力だ!さぁ、ここからが始まりだ。この神都を私の拠点として全てを支配してやる!!」
それは高らかに、楽しそうに、街中に響く。
「ったく、本当にアナトと同等なのか。疑いたくなるほどの力だな」
イルゼもまた狂気に支配されている存在。この状況を見て彼女もまた嗤う。
ファールジュは少しついていけない感じが出ており、また別の感情を持っているようであった。が、それを飲み込み、ただ街の悲惨な様子を眺めることしかできなかった。




