計画完了
トーゼツはミトラ、ロームフに肩を借りながら移動していた。
「くそッ、何も出来なかった……!」
トーゼツの頭の中にはエルドとアルウェスがいた。
固有技能を獲得して術聖に一歩近づいたはずなのに、自分の人生を投げ打ってまで俺たちを庇って死に、勝利に繋いでくれたエルド。殺したいほど憎いが、ちゃんと罪を償って欲しかったアルウェス。彼もまた仲間であるサルワに殺されてしまった。
「俺は……俺は……!!」
ポツリ、またポツリと出る後悔のその声に二人はトーゼツに声をかけることも出来なかった。自分たちはトーゼツ以上に何も動けなかったのだから。
憤怒の厄災と戦って、その直後にアルウェスとも戦闘して……。それで魔力切れになって戦えなかった。全てトーゼツに任せるしかなかった、なんて言葉は言い訳に過ぎない。トーゼツだってこれまで戦闘を重ねてきてここまでやってきたのだ。
固有技能がないから、才能がないから、魔力量が少ないから……そんなモノ全て逃げているだけ。自分に無い物を挙げてただ現実から目を背けているだけに過ぎないのだ。それにこの場で最も何も持っていないのはトーゼツだ。『職』という神の祝福を与えられず、あらゆる才能が無いと見下されてきたのは──
『聞こえるか、神都に集まる者どもよ』
そこに突如として響く声があった。
声のする方向へと三人は視線を向ける。
そこは神都の中央、調和神アフラの住居であり城として存在していた黒く、大きな長方形の建物。窓もなく、ドアもないこの建物がしかし現在では上層部分が壊れており、建物内部が垣間見える。その部屋の中から見えるその影は──
「サルワ……!」
トーゼツは相手を睨みつける。
絶対に倒さなければならない相手、この世に居てはいけない厄災。
彼女は下級レベルの音声拡張魔術を用いて神都一帯に自分の声を広げている。
『私たちは現在、調和神アフラを討伐することに成功した!今や、この都市の支配者は私、悪神から生まれし支配の厄災ことサルワである!今から頭を垂れて我が元に来るのであれば我が配下、我が民、我が僕として迎え入れよう!』
その発言を多くの者達が聞く。
その言葉を信じ、恐怖する者。またすぐにでも頭を垂れて自分の命だけでも助かろうとする者。逆にこれまで導いてくれた調和神アフラを討伐したと聞いて怒りを覚える者、必ずコレだけは殺さなければならないと覚悟を決める者、そして堂々と言っているんだと嘲笑う者もいた。
「アレは俺たちを笑わせるためにあそこまで登ったのか?」
そのように小馬鹿にしているのはメイガス・ユニオンの部隊を引き連れいる指揮官の一人であり、ベスとテルノドが戦ったあの魔術師であった。また他にもベスやアナーヒターも怒りに燃えており、すぐにでもあの場所から引きずり下ろし、殺してやるという感情が渦巻いていた。




