裏切り者 5
そこは神都の中央、調和神アフラの住居であり、城として存在していた黒く、大きな長方形の建物。窓もなく、ドアもないこの建物がしかし、現在では上層部分が壊れており、建物内部が垣間見える。
そこは調和神アフラが居たあの部屋であり、彼女の死場所でもあり……正真正銘、神代最後の神であるアムシャの封印されていた場所。
そこに居るのは三つの影。イルゼ、サルワ、そして……。
「アムシャの登場に、想像以上に強く、今の私でも勝てなかったアナト。色々と驚かされ、計画もどうなるか分からなかった状況で、ようやくここまで来た。裏切り者であるお前が冒険者の動きを教えてくれたおかげだ、感謝するよ」
サルワがそのように声をかけるその相手は──
「感謝の言葉、痛み入りますわ」
魔術学連合に所属する者であり、調和神アフラに信頼され、厄災の研究を任されていた魔術師の一人。ファールジュであった。
「しかし、大丈夫なのかしら?アムシャもアナトも死んだわけじゃないし、明確な敵でしょう?ここは一旦、撤退して様子見するのが最善ではなくて?」
ファールジュはそのように提案する。
彼女の言う通りだ。
計画は今のところ、問題なく進行中ではあり、最終段階ではある。が、大きな障害がある以上ここから先上手くいく保証がない。なんなら今すぐここにかっ飛んで来て戦闘になる可能性だってある。
他にも問題はある。
神都を覆っている結界もだ。あれは最後の最後で調和神アフラが発動させた結界。あれは人類かどうかを区別し、人類外の存在の出入りを不可能にさせている。つまりあの結界をどうにかしない限り、神都から出ることは出来ないということだ。
「それは問題はない」
サルワは断定する。
「アムシャは基本、傍観者だ。アナトも戦いでかなり魔力も体力も削がれている。ここはおとなしくしておくはず。だったら──いいや、だからこそ今のうちに計画を終わらせるんだ」
時間が経てば経つほど、アナトは回復する。そして、こちらに再び攻撃を仕掛けてくる。その前にこの計画の全てを終わらせた方がいい。
「あの結界も利用できる。それに自由に出入りする方法も既に考えてる」
サルワが取り出したのは一本の縄。それは端と端が結ばれており、大きな輪っかになっている。そう、これは神具保管庫から盗み出し、憤怒の厄災をここに呼び出した神代の遺物。
「そうか、これを使って今後は出入りするということですか」
ただ力を持つだけではなく、サルワは頭もかなり良いのだな。と改めて目の前にいる存在の強大さについて知り、判断は間違っていなかった再認識するファールジュであった。
「さて、ではやるか」
そうして、サルワは魔術を発動させる。それは下級魔術であり、一般的に普及されているごく簡単な魔術、音声拡張の魔術であった。




