裏切者 4
アナーヒターは意識を失ってどれくらい経ったのだろうか。
気づけば彼女は誰かにおぶられていた。
(だ…れ、だ?)
うすぼやけた視界の中、周囲を見渡し確認する。どうやら意識を失っていた時間は案外、少なかったようだ。この感じでいくと数分、最低三十分ぐらいのようだ。
「お?どうやら意識が目覚めたようですよ」
その声はおぶってくれている者からの声であり、何処かで聞いたことのある声。
「良かったですわ!私が治療したから死ぬことはないと思っていたんですが、それでもこの戦況で意識不明の人間を守りながら戦うのはキツイもんですらね!」
もう一人、それは隣の方から聞こえてくる女の声。これも聞いた事のある声だ。
「戦闘はほとんど俺とテルノドがやってるだろうが。そんな風に言うんだったらお前がおぶるか?」
もう一人……別の男の声、これまた聞いた事のある声だった。
「私の身長を見て言ってくださる!?」
こんなふざけたやり取りに知っている三人の声……そう、これは──
「ベスと…エイルに、テルノド?どうして、こんな所に……?」
エイルとテルノドはともかく、ベスは一般市民の避難を任せていたはずだ。もう市民の避難が終わったから助けに来てくれたのか?いいや、ベスの性格はそんなモノじゃないはずだ。面倒なことからはさっさと逃げる性格だ。ではどうしてこんな所にいるのだろうか?
「色々と面倒な事になってんだよ。後から詳細を話すけど、メイガス・ユニオンが侵攻してきた。そのせいで一般市民の避難はまだ終わってない。あと化け物は未だに闊歩しているし、最高戦力であるアナトも何処にいるか分からねェ。お前は血出して倒れてたし……くそッ、裏切り者だっていたしな」
なんだか今すぐに詳細を聞いておきたい話ばっかりだが……ベスの中でも情報がまとまってないのだろう。口調からしてかなり困惑しているようだ。だが、これだけは聞き逃せない。
「裏切り者……?」
「ああ、そうだ。というか、居る事自体は薄々気づいていたんじゃないか?」
確かに、今考えるといくつか不思議な点がある。
メイガス・ユニオンが調和神アフラの管理している神代の遺物の奪取を目的に神具保管庫に侵入したあの事件。
そもそも神具保管庫は一般公表されていない。都市伝説のような、噂として存在は流れてはいたのだが……実際に存在しているかどうかは冒険者ギルド連合本部に所属している冒険者であっても、一部の者達にしか知られていなかった。メイガス・ユニオンはその神具保管庫が本当に存在すると、何処で情報を入手したのだろうか?さらには、神具保管庫の中にどんな神代の遺物があるのかも知らないはず。だが、侵入したからには何か欲しいモノがあったから入ったはずだ。
中に何が保管されているのか、それらの情報も一体何処で……?
「ったく、裏で探ってはいたがこのタイミングで裏切り者が活発に動き始めた。ちぃ!本当に状況が面倒な方向にしか転がっていかねェな!」
そのように文句を言いながら、ベスはおぶりながら走り、それにテルノド、エイルも続いていく。




