狂気の果てに 4
アルウェスは自分の中に残った力を絞り出し、かろうじて繋がっている左手に魔力を集める。
「固有具現化!!」
その詠唱と共に魔力が死神のような鎌を生成する。
死にかけの体、消耗した魂。アルウェスの脳にこれまで感じたことの無い痛みが神経を辿って伝わってくる。が、そんなのは関係ない。自分の屈強な意思で耐え抜く。
自分でも分かっている、こんな事は無駄であると。だが、無駄かどうかではない。
トーゼツを見て知った。
諦めないことが──
「ちぃッ、余計な足掻きを!」
サルワは刃の厄災の力ですぐさま剣を作り出し、対抗しようとする。
「おおおおっ!固有術〈狂気乱撃〉!」
鎌の刃から四方八方へと斬撃が飛び出す。サルワも斬撃の一部が体に当たるのだが、全くダメージがないようだ。肉どころか皮膚すらも斬ることが出来ずに斬撃は散っていく。彼女の表情にも苦痛の色は見えない。その瞳にはアルウェスすら映らず、目的である死の厄災の核しか興味がないようだ。
本来であれば、魂を刈り取られてすぐさまサルワは死ぬはずなのだが……厄災同士は能力が効かないのか?それとも彼女には魂がないのか。
だが、そんな思考も意味はない。
剣を強く握りサルワは容赦無く剣で鎌を砕く。
「くッ、……そ!」
そのまま刃を返し、今度はサルワの頭をかち割る。
「ッ!」
そこで彼の意識は遠のく。
どんどん真っ赤に染まっていくその視界は──しかし……
「ははっ、最期は……俺らしく、死ね……て…………」
アルウェスは笑っていた。
それは心の底から、楽しく、嬉しそうに──
「へぇ、良い顔も出来るじゃない」
その顔を見てサルワは彼にようやく多少の興味、それは本当にほんの一欠片ではあるが感情が湧いていた。しかし、それもアルウェスが死んだ後というのが残念ではあったのだが。
最期は人として死にたかったようだが、やはり彼は人を辞めていたのだろう。アルウェスの死体がドロドロの黒い泥となっていき、どんどん人の形ではなくなっていく。そして泥さえも消えて、そこに残ったモノは──
「これが死の厄災の核か……ちッ、やっぱりか」
固有具現化で現れていた大きな死神の鎌。しかし、刃はボロボロであり、見窄らしい姿であった。
死の厄災は神話の時代に討伐された厄災。つまりこの核はアルウェスに取り込まれていたとはいえ、万年近くは確実に経っている。魂を刈り取るという力も残っていないだろう。アルウェスがいつ、どの段階で取り込んだのかは知らない。だが、きっと彼が取り込む時もこのような姿であっただろう。
しかし、アルウェスが……というよりもイルゼとかも同様な状態が起こっているのだが、取り込んだ厄災は固有技能として発現している。そして固有技能は成長し、変化することがあるという。きっとアルウェスが取り込んでいた時は固有技能として死の厄災の力が成長し、本来の力以上の能力として発揮していたと思われる。だが、アルウェスの育てた力は最期までアルウェスのモノのようだ。
死の厄災の核は、今にも朽ちて消えそうな力へと戻ってしまった。




