狂気の果てに 3
サルワはトーゼツ達を無視して、倒れているアルウェスへと視線を移す。
「負けたのか……、まっ、そもそも貴様のような輩がこの戦場で勝ち残るような駒だとは思っていなかったけどな。逆にここまでよく頑張ったよ」
「言って…くれる、じゃ、ねェか、ごォッ、おフ!」
口から血を吐き出しながら、アルウェスは嗤いながらサルワを睨む。しかし、その眼も、言葉も、サルワは一切興味がないようだ。彼女の表情に変化はない。
「おいおい、俺たちは無視か?」
トーゼツはアルウェスの前へと守るように出ると同時にサルワの視界を遮るように立つ。
「……はぁ、アナトの弟如きが私の前に立つなよ。お前が強い事は知ってるが、そんなボロボロで、魔力低下しているお前が今の私に勝てると思うのか?」
サルワは喉に魔力を込めて、言い放つ。
『おとなしく倒れていろ、雑魚が』
その瞬間、トーゼツは上からまるで数トンレベルで重い岩が乗っかったような感覚が現れ、その場に倒れ込んでしまう。
「か、体……が…_!!」
ミトラ、ロームフも先程まではトーゼツ同様、すぐさま戦闘出来るように構えていたがトーゼツの倒れ込む姿を見て繊維を喪失してしまう。今の状態では絶対に勝つ事は出来ない、と。
「さて、私の目的は──」
下級レベルの魔術を無詠唱で発動させると、でアルウェスの体を宙に浮ばせ、自分の元へと寄せる。
「ほう?これは憤怒の厄災か?」
アルウェスの懐からサルワが取り出したのは、狂気を発する一本の鎖。ミトラ達が頑張って討伐した憤怒の厄災の核であった。
「これは予想していなかったな、良い仕事をした、アルウェス。だが、最期の仕事が終わっていないからな。そしてお前の死の厄災、その核を取り込ませてもらうぞ!」
そうして右手に魔力を纏わせると、アルウェスの胸めがけてその拳を突き刺す。
「ァッ!!!」
アルウェスは言葉にならない叫びを挙げる。
とてつもない痛覚。どんどん体内から消えていく厄災の力。自分をここまで突き動かしてきた狂気、その喪失感と共に込み上がってくる不安。
「コレだッ、この力……ははッ!さすがは我が兄弟の中で最も強い死の厄災の力だッ!これこそ、私の求めていた力──」
サルワから嬉しそうな声が響き渡っていたのだが、すぐさまその表情は変わる。
「おい……させ…ねェぞ!」
アルウェスは自分の胸に突き刺さっているその手首を両手で掴み、力の流出を抑え込もうとする。
「何のマネだ?」
「私と、死の厄災はここでトーゼツに敗れて終わったんだ!これ以上、俺たちの終わりに邪魔はさせない!!!」
それはアルウェスの最期だからこその抗いであった。最悪な人生、狂気に塗れた一生。それ故に最期くらいは人として……自分の意思を持ってこの命を終わらせたかったのだ。




