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狂気の果てに 2

 アルウェスの戦意がなくなった所を確認してトーゼツは杖を下ろす。


 「本当に大丈夫なのか?」


 ミトラは安全であると判断したうえで嫌そうな顔と声色でトーゼツに近づいていく。


 「コイツはエルドを殺した。他にも大勢だ。それに厄災の核を取り込んでいる危険人物でもあるんだぞ。ここで殺しておいた方が絶対に良い」


 今は狂気が薄れているようだが、どうせ魔力と体力が回復すればアルウェスの狂気も戻ってくる。また暴れられたら誰が止めるというのだ。


 「……今は抵抗するつもりもない。今は厄災の力は半減し、狂気による精神支配もないからな。今はお前ら人間と同じだ。どうにでもしろ」


 アルウェスは疲れた体、脳を休めるように眼をつむりながらミトラの言葉に返答をする。それを聞いては容赦なくいつでも殺せるように剣先を向けるが──


 「かもな、だったらミトラ、お前がやればいい」


 そのトーゼツの眼は、決して慈愛に溢れているモノでも、優しいモノでもない。未来の……可能性を信じているまっすぐな眼であった。そんな眼は誰しもが出来るわけではない。


 「……ッ、分かったよ。だが、とりあえず何かしら拘束は必要だろ?」


 今でもなお嫌そうな雰囲気を出しているが、とりあえずはトーゼツのいう事を信じることにしたようだ。それに、我々は決して正義ではない。ちゃんとした場所と、人たちで審判を下すべきだと思ったのだろう。


 「そうだな……そしてありがとう、ミトラ」


 「私は何もしてないよ……、あぁ、疲れた!もう少し座って休ませてもらうよ!」


 そういって近くの大きな瓦礫に背中を預け、座り込む。


 トーゼツは杖の力で光の鎖を生み出し、それをアルウェスに巻き付ける。


 「さて、これで暴れられないし、今のところは問題ない──」


 それでトーゼツが安心しきった所で、視界が真っ赤に染まる。


 一体、何が起きた?


 一瞬、脳の思考が止まり、すぐさま痛みが襲い掛かってくるのに耐えようと意識する。が、全く痛みは来ない。というか、自分の体の何処にも傷はない。であれば、これは自分のモノではない。


 では誰の血か。


 「ッ、グぁ!!」


 目の前で倒れて拘束されているアルウェスであった。


 「ダメだよ、アルウェス。お前の力は私のモノになるのだから」


 それはトーゼツの目の前から聞こえてくる。アルウェスに向けていた意識を前へとやる。するとそこに居たのは──


 「支配の厄災!!」


 トーゼツが叫んだ先に居るのは金髪の髪にまるで竜のような二本のツノが生えた女の支配の厄災であった。


 「その名前は止めろ、私の名はサルワだ」


  サルワはトーゼツを見下したながら、怒気を纏った言葉を放つ。彼女の眼は明らかに格下の相手としての憐れみと、そんな奴が愚かにも敵意を以てこちらを見ている苛立ちの眼であった。

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