狂気の果てに
俺はきっと…何処で道を間違えたのだろう……。
元々は裕福な商人の生まれだった。世界中のあちこちに家族で旅をして、珍しい品物を揃えて、それをまた別の国で売る。一年に数回、故郷に帰り、家で休んだのちにまた家族で商人として旅に出る。
そんな家庭だったからこそ、戦いを親から教わっていた。
魔物や盗賊に遭遇してしまった時に対処出来るように……。
俺は常に死と隣り合わせである冒険者にも引けを取らない実力を手に入れていた。
それでも、運命というのは残酷だ。
まだ俺が十二歳の時だった。馬車が盗賊に襲われ、親が必死に戦ったが死んだ。姉と一緒に近くの森へと逃げたのだがそこには魔物がいて、姉が死んだ。
俺は一人で走って、逃げて……。
金はない。十二歳という小さな自分が一人で故郷に帰れる方法は無かった。だが、そのまま路頭に迷って死ぬなんて人生は真っ平ごめんだ。すぐに近くの街へ向かってギルドで手続きを済ませ、冒険者になって小銭を稼いだ。そこからはガムシャラに生きた。
魔物を狩って、悪人を殺して、時には金持ちの護衛をして……。
元々は故郷に帰るための金を稼いでいたはずが、いつまで経っても生きるのだけで精一杯の金額しか貰えず、商人だったあの頃よりも苦痛な毎日だった。
それでも、いつの間にか仲間と呼べる者たちが出来て、パーティを組んで──
俺の心の穴が埋まった瞬間だった。
だが、それもすぐに終わりを迎えた。
何ともない、魔物狩りの任務だった。そのはずだったのだ。
皆、死んでいった。
家族が死に、友が死に……なぜか最期は自分だけが生き残る。
「はははっ……」
絶望を知り、何の感情も湧き出ない枯れた笑いだけが出てくる。
どうして?
なぜ?
俺だけを残して、周りが死んでいく。
とうとう枯れ果てて、疲れ切ったその心に近づく一人の男。
彼との出会いだ。
「良さそうな体だ。これなら厄災の力にも耐えるかもしれないな」
そうして、虚無だった俺を連れ去って、あの人は──
ハッと視界と意識が切り替わる。
「あぁ、そうか……」
気づいた時、自分が血まみれで倒れていた。右腕はなく、左腕もかろうじて繋がっているだけ。今にも引きちぎれそうだ。足は力が入らない。脊髄でもやられたのだろうか。
そして、目の前には、明るく、眩しく、自分とは違う存在がいた。
トーゼツ・サンキライ。
「これが走馬灯ってやつか……」
これが、俺の望んでいた死か。
狂わなければ歩めなかった最悪の人生だ。後悔しかないんだ、今更どんな終わりを迎えようとも足掻くつもりはない。ここが俺の長い旅路の終着点のようだ。
「お前でも走馬灯は見るのか、それは良い思い出だったか?」
「いいや、クソッタレな記憶だったよ。というか、敵の俺にそんな優しい言葉をかけてどうするつもりだ?俺から何か情報でも聞き取ろうってか?」
「……確かに敵だし、殺したい相手だ。だけど、俺はみんなを守ることが好きなんだ。俺はお前を殺したくて戦っているんじゃない。お前の厄災の核を取り出して、更生させられるのであれば、そうするべきだと思っている」
アルウェスは、目を見開く。
そうか、これが俺の人生に足りなかったモノなのか。
自分だけじゃなく、他者すらも許していくことが。
「ははっ、勝てないわけだ」
アルウェスは目を閉じる。
だが、それは死を迎えるためではない。
もう一度、自分がやり直せるかもしれない事を信じて……。




