死の厄災 18
アルウェスは肩を大きく揺らし、激しく息切れしていた。
「はぁ、はぁ!」
あれほどの魔力を一気に消費して放った〈エーイーリー〉。他者の魂を利用したといえどもその反動は強く、アルウェスの額から汗が流れ出す。
腕に力が入らず、ガタン!と鎌が地面に落ちる。
だが、それほどの一撃を放ったのだ、死んでいないわけが──
「マジか……それは予想していなかったぞ」
アルウェスは驚きと、倒せなかった絶望と……ゴキブリのように潰しても起き上がる化け物じみた抵抗力に口角を上げ、嗤いが止まらなかった。
そこにいたのは立ち上がる一人の影……トーゼツ・サンキライであった。
そして彼の前には一本の杖が地面に突き刺さっていた。
「エルド……お前…」
最期にエルドの顔は見たかったが、体すら残っていなかった。
残されたのは彼の使っていたこの一本の魔術の杖。
「馬鹿野郎!!」
トーゼツは叫ぶ。
彼は俺を理想だと言って、感謝をしていたが、それは違う。
俺がいなければ彼はここにいなかった。あの小さな街で、幸せに生き続けていたかもしれない。
俺が殺したようなモノだ。
「俺は……俺は……俺は誰かを殺したくて冒険者になったんじゃない!!」
人を助ける英雄に、魔王を倒す勇者に……そんな戦う者たちに憧れて俺は冒険者になったんだ。
俺は決して万能ではないし、強くはない。みんなを守れるとは思っていないし、英雄や勇者などは子供が夢見るモノで、それを見続ける自分の心が幼いというのもわかっている。
それでも、なお──
「俺の原点じゃないだろ……」
涙が止まらない。
このまま枯れ果ててしまいたい。
だが、それは許さない。
それこそ、エルドの想いが無駄になってしまう。
トーゼツは目の前にある杖を手に取る。
「……これは──」
トーゼツはその杖に一瞬、違和感と共に手に馴染む感覚があった。
そう、この杖は──
「あのエルドの固有技能が俺の攻撃を防いだのか……くくくッ!何かやるならトーゼツがやってくれると思っていたんだけどな。まっ、ここからが正念場ってやつかな」
アルウェスは魔力を出す。
それは正真正銘、自分の魂から生成する魔力。ここから先は魔力量による圧倒的な攻撃力はない。だがらと言ってアルウェスの敗北が確定したわけではない。
トーゼツもボロボロだ。
魔力を送り、無理やり腕を動かして鎌を持ち、走り始める。その速度は遅く、力強さはもう無い。明らかにパワーダウンしている。それでも今のトーゼツであれば脅威だ。
「ここからが勝負だッ、ぶち殺してやるぜェ!」
トーゼツは涙を拭き、最期の戦いに向けて気持ちを整え、そうしてこちらに来ているアルウェスを睨む。
「お前を…倒す!!!」
トーゼツは杖に魔力を纏わせ、向かってくるアルウェスに合わせてその杖を振り上げる。




