死の厄災 17
エルドは腕の光を周囲に広げ、〈エーイーリー〉からトーゼツ、ミトラ、ロームフの三人を守るようにバリアとして展開する。
ドンッ!と強い衝撃と共に、光と〈エーイーリー〉が強く衝突する。
「ッ!」
魂三人分の魔力を込めた一撃だ。魔力効率の良いエルドの固有技能であっても、それを防ぎ、耐え続けるのは難しいだろう。それでもエルドは耐え続ける。
光のバリアを通して、エルドにもその力が襲いかかってきているようだ。腕の皮膚が剥がれ、肉が見え出す。鼻、口からは血が流れ出す。エルドの表情も苦痛のモノになっている。
それでもなお、耐える。
後ろにいる者たちを……憧れであり、自分を掴ませてくれたトーゼツを助けるために。
「もう、良いんだ!」
トーゼツは叫ぶ。
光と〈エーイーリー〉の衝突音が大きく響く中で、トーゼツは必死に叫ぶ。
「お前がそこまでする必要はないだろ!俺が、俺だったら──」
「俺だったら死んでも良い、か?」
トーゼツの言葉を予測したエルドが先にその続きを言う。
確かに、この一撃、トーゼツも防御することが出来るかもしれない。しかし、それは自分の魂一つ消費して一気に魔力生成すればの話。つまり死ねば出来るかもしれないということ。
だが、ここまできても、『かもしれない』という点だ。死ぬ覚悟で防御しても、出来ないかもしれない。それはトーゼツの命は無駄になってしまう可能性が高いということだ。
だったら、確実であるエルドが皆を守った方が良い。それに──
「俺は……あの小さな街で、世界を知らずに生きていく運命だったんだ。それをトーゼツが変えてくれた。この広い世界を知って、術聖になれる可能性を知って、俺は強くなった。術聖にまでは届かなかったけれど、ここまで来ることが出来たのは全部トーゼツのおかげなんだ」
エルドは思い出す。
トーゼツと初めて会った、魔物から助けれくれた時を。そして、剣聖ミトラと手合わせとして、良い勝負をした事。あれを見て、あの街を出る覚悟が決まったんだ。
その後、一緒に黒いローブの奴らと遭遇し、街の人々を守るために一生懸命戦った。そこからミトラと再会して冒険者連合本部に行き──
(たった一年もない出来事。それでも、この一年は──)
エルドの顔には苦痛など、もう無かった。
自分はここで死ぬんだ。
最期の最期まで、一緒に戦い、自分の理想として居てくれたトーゼツを助けることができた。
それだけで満足、後悔など微塵もない。
トーゼツはエルドへと手を伸ばしそうになる。が、それをミトラは止める。
「ダメだ!あんなに高出力で魔力がぶつかっているところに近づいたらお前タダじゃ済まないだろ!それに、あれはエルドの覚悟だ、それを無駄にするわけにはいかないだろ!」
それでも、なおトーゼツは手を伸ばして近づこうとする。
「ダメだ、エルド!お前は…お前は──」
エルドの光が世界を包み、トーゼツの視界が真っ白になる。




