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死の厄災 16

 トーゼツ、ミトラ、ロームフ、エルドの四人がそれぞれ思考し、感じ、行動しようとしているにも関わらず、アルウェスはその圧倒的な一撃を放つために詠唱を開始させる。


 『死を恐れぬ愚かで鈍き者たちよ、死を司る厄災である我の一撃を以て死の恐怖を思い出せ。そしてここまで来たことに後悔すると良い』


 鎌に渦巻く魔力が不気味で、恐ろしく、近寄りがたい漆黒に染まり、周囲に死の匂いを充満させる。さらに今の魔力量はアルウェスでも抑えきれぬようだ。鎌を中心に魔力が勢いよく無駄に放出されている。それにより竜巻の中かと思わせるほどの風がアルウェスの持つ鎌を中心に発生していた。


 まさにアルウェスの周囲の環境のみが極限の環境となっており、並の戦士でも近づくだけで致命傷を負ってしまうだろう。いいや、そもそも満ちている死の匂いに狂気……それらで発狂してしまい、自我を失う事間違いないだろう。


 そして、その鎌は振り下ろされる。


 「〈エーイーリー〉!」


 巨大な死の斬撃がとうとう四人に放たれる。


 最後まで抗おうとしていたミトラは自分の展開しているバリアでは防げないこと、全くの無駄であると一目見て分かってしまった。そこで彼女の心は完全に折れてしまう。


 「ここが、墓場か……」


 ロームフも死の恐怖もなくなり、絶望もない。ただどうしようもない現実に思考が停止していた。


 (ちぃッ、どうする!?!?)


 だが、トーゼツは最後まで諦めない。それでこそ『不屈の魂』を持つに相応しい人物である。だが、この世には何をやっても無駄、感情だけではどうすることも出来ない事がある。


 頭を必死に回転させ、何か良い術はないか?みんなの魔力を回復させられればあるいは──。もしくは、他に何か良い手はないのか?


 だが、やはりそれらもまた無駄な思考であった。


 こうしているうちにどんどん〈エーイーリー〉が接近してきている。


 もうダメだ……そう思った時──


 「エルド……?」


 トーゼツは目の前に立ち、両腕に光を纏うエルドを見る。後ろ姿しか見えないので、彼の表情は分からない。それでもエルドから感じるその覚悟は──


 「俺はこの時のために……」


 エルドはそこから更に歩き始める。こちらに向かってくる〈エーイーリー〉の方へと。


 トーゼツはただ、それを見ていることだけしか出来なかった。


 しかし、何をしようとしているのか。トーゼツは何となく察してしまう。


 「それは…ダメだ、エルド。それじゃあ、ダメだろ……!」


 その言葉でエルドの足は止まる。が、すぐにまた動き出す。


 「いいや、これしかないんだよ。トーゼツ」


 「お前は、俺と違う!だったら、俺が──」


 そうだ、違うんだ。


 神に見捨てられ、才能のない俺よりも術聖として見出されたお前なら、ここで命を燃やし尽くすのは俺だけで充分のはずだ。


 「いいや、これは俺にしか出来ないことだから」


 そうして、とうとう〈エーイーリー〉がエルドへと到達する。

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