死の厄災 10
アルウェスはかなりトーゼツの固有技能に関してとても分析しているが、半分これは深読みのし過ぎであったりもする。というのも、トーゼツの固有技能、スキル名は『不屈の魂』それはトーゼツの心、精神が諦めない限り、魂は入り、肉体は再生する。
ここで重要なのはどうやって肉体の再生を行っているのか?という点である。
時間が巻き戻っているわけでもないし、肉体のダメージが決してゼロになっているわけでもない。受けたダメージが無くなることはない。のにも関わらず、肉体は何も無かったかのように戻っている。
その仕組みは意外と治癒魔術と同じ、細胞の分裂能力、治癒能力の活性、高速化である。
傷が治る、千切れた指が繋がる……近年の現代では適切な治療、手術が行われているため忘れてしまいがちだが、最終的にはこれらの怪我は全て細胞の治癒能力によるものだ。糸で縫合したからと言って切れた血管、肉、臓器が繋がるわけではない。糸で離れないように密着させ、死んだ細胞を補うため分裂し、細胞同士が治癒……癒着させることで傷治している。
つまり、トーゼツは腕が切断されても、胴体を脚が分離しても、すぐさま癒着して繋げているのだ。
また血液も同様だ。本来であれば出血多量で死んでもおかしくない所を無理やり血液を作り出して補っているに過ぎない。
ちなみに無詠唱、魔法陣なしで上級レベルの術を発動できているのは、発動の負荷で死んだ脳を秒で再生させているから。要するに、上級レベルの術を発動させるたびにトーゼツは死んでいるというとんでもない状態になっているのだ。と言えど、もちろん毎回死んでいるわけではないのだが。
ともかく、凄まじい治癒の仕組みは魔術と一緒。しかし、アルウェスはその絶大レベルに近い治癒能力を見て、不死身の力なのか、それとも別の力なのか?魂が何かしら肉体に関与しているのか?と考えてしまっているだけだ。
そして、それに気づけばトーゼツは物凄い爆弾を抱えてしまっていることに気づく、
肉体の回復は所詮、細胞の治癒能力に依存している。しかし、細胞には寿命があり、分裂回数には上限がある。細胞の活性化、治癒能力恒常はその寿命を早めていることになる。しかも、それを魔力によって無理やりしているという事で細胞への負担がさらにかかっている。
食事をし、体を休ませてあげれば、細胞にかかっている負担も消え、分裂回数や寿命も元に戻るだろう。しかし、この激しい戦闘の最中に食事を摂ることなんて不可能であり、休む時間だってない。この戦い……これ以上続けばいずれトーゼツの肉体回復が出来なくなり、トーゼツは死ぬ。
さらにこの問題、なんとトーゼツ自身が把握していないのだ。
そもそも、死んだ事で発動する異類の固有技能。トーゼツは自分が死んだ後に能力が発動したというのを感じることは出来ないし、死んでいる最中はただ意識を飛んでしまったとしか思っていない。つまり、ここまでトーゼツは自分が一回も死んでいないという認識を持って立っているということだ。
自分の抱えている大きな爆弾、それに気づけていないトーゼツ。
実際に追い詰められているのはアルウェスではなく、トーゼツの方であった。




