死の厄災 4
ミトラは唖然としていた。
一か八かの攻撃だったゆえに、負けたことには一切、驚きはない。さすがのアルウェスでも絶大剣術を受ければそれなりにダメージが入ると思っていた。しかし、一切、ダメージが無いどころか、絶大剣術〈一刃斬断〉を押し上げてしまったことに驚ているのだ。
同じく絶大レベルの術で押し上げるのであれば、驚きはなかっただろう。それをアルウェスは魔力のみで成し遂げた。それがもう人間を辞めてしまっていると言って過言ではないモノであった。
ミトラの知っている者たちの中でそれが可能なのは調和神アフラやアナトと言ったこの世界の頂点に立っている戦士だけだろう。だが、それでも彼らであれば出来てもおかしくはない、ということだ。
「アルウェス……お前は、一体どうやって……!?」
前回、アルウェスと会ったのは二か月ほど前。
たった二か月という期間で世界の頂点に立てるほどの実力を持てるだろうか?
そもそもこれほどの魔力量……かならそこには何か種か仕掛けがあるに違いない。
「教えてあげるほどやさしくないんだよね。それよりも──」
死神の鎌をアナトに向ける。
「トーゼツとも戦いたいし、お前たちとの戦いはもう終わらせちゃうか」
彼は問答無用で、魔力切れで倒れているミトラの首筋に鎌の刃を当てる。アルウェスが少しでも腕に力を入れれば、彼女の頭は地面に落ちてしまうだろう。
「くッ……!」
ミトラは抵抗しようとするのだが、もう体が言うことを聞かない。魔力だって、どんなに振り絞っても生成するこちが出来なかった。
「待てよ……まだ、俺が……」
アルウェスの背後でフラフラと必死に立ち上がる影、それはロームフであった。それだけじゃない。エルドもまた、魔法陣を展開し、アルウェスに向けて攻撃準備をしていた。どうやらこの数分間で多少、魔力が回復したようだ。
それでも変わらず絶望的状況、ひっくり返ることのないモノであると誰が見ても分かるのであった。
「ははっ!そんなに死に急ぐなよ。どうせコイツを殺したあとはお前らだ。一緒にあの世に行ける、これほど嬉しいことはないとは思うんだが!」
哀れな二人に対し、やはりアルウェスは嗤い倒し、侮蔑の目を向ける。
「そこで剣聖ミトラ・アルファインの死を見届けていろ!」
そうして、鎌が首を切り落とそうとする。その時であった。
何処からともなく、猛スピードで地面を駆け抜け、アルウェスに飛びかかる者がいた。
アルウェスもまた、その敵意、殺気に咄嗟に気づき、鎌を引いて防御の構えを取る。
ガァンッ!と鉄と鉄が大きくぶつかり合う音と衝撃が周囲に響く。
「殺させねェよ!!!」
それは槍を持った一人の少年、そしてアルウェスが求めていた標的。
「そっちから来てくれるとは、嬉しいよ。トーゼツ!」
アルウェスは莫大な魔力で槍ごとトーゼツを押し返す。ズズズ、と靴底を擦らせながらトーゼツは数十メートル後方へと下がり、距離を強制的に取らされるのであった。




