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死の厄災 2

 これほどまでにも充分な戦闘が出来ないミトラ、エルド、ロームフの三人に対し、アルウェスは逆に退屈そうであった。


 「うーん、これでも取り込んだ魂はもう十人分もないのに……強くなるのは良いことだけど、戦いが圧倒的でつまらなくなるのは楽しくないな」


 魔力がなくて、肉体的疲労も溜まっていて、それでいて自分の体が上手く動かないというのに、まるで沸騰した湯のように、アルウェスからは魔力が勢いよく立ち昇らせている。鎌をくるくると、まるで舞踊のように回している。


 これほどの余裕、圧倒的魔力量の差。


 「はッ、笑わせるなよ。私たちが万全な状態じゃないからこそ、お前は勝てるんだ」


 ミトラもまたアルウェスに負けないほど侮蔑の混じった嗤いで彼を睨む。


 「おいおい、負け惜しみを言うなよ、剣聖ミトラ」


 だが、アルウェスは挑発に乗ることもなく、三人を見下したまま、嗤って動じることはなかった。


 「だったら、本気を見せてやるよ!!!!」


 ミトラは現在、生成出来る全ての魔力を剣へと集中させる。


 「絶大剣術!」


 ぶわり、と魔力が舞い上がり、周囲一帯にミトラの魔力で充満する。


 「へぇ、良いね!まだそれほどの魔力を残していたのか!!」


 アルウェスの表情が退屈なものから一瞬で、新しいおもちゃを見つけたような子供の楽しそうなモノへと変化する。それに対し、エルド、ロームフは違った表情であった。


 「ダメ…だッ、ミトラ!!」


 ロームフは叫ぶ。


 エルドもまた、同様に止めようとする。


 「そんな魔力も、余裕もないだろ!ここは無茶をするタイミングじゃない、止めろ!」


 二人が止める通り、ミトラは自分に残った全ての魔力を消費して絶大剣術を発動させるつもりである。もちろん、ミトラはこのタイミングで、全ての魔力を消費するのが最適だとは思っていない。魔力さえ残っていれば他にもいろんな手段に使えるだろう。


 身体能力強化はもちろん、軽い治癒魔術ならミトラも使える。上級剣術、中級剣術の中には刃に炎を纏ったり、雷の力を宿わせると言ったモノがある。もちろん、絶大剣術に比べれば圧倒的に威力は落ちるだろう。だがそのぶん、多種多様な方法で攻めることが出来るし、同時発動の組み合わせでさらに倍の手札が生まれる。その方が戦闘継続させるならば、それが良い。しかし──


 「そんなことは分かってる!でも──」


 ミトラは悟っていた。アルウェスの纏う魔力量では、決して上級剣術程度で押し勝つことは出来ない、と。どんな攻撃も、炎であっても、雷であっても、それは無駄に終わってしまうだろう。


 であれば、ここは一か八か。


 ミトラは大きく一歩、出てアルウェスとの距離を詰め、重々しくその剣を振り上げ、その腕にもの凄い力を込める。そして、彼女は叫ぶ。


 「喰らいやがれ!!〈一刃斬断いちじんざんだん〉!」


 その詠唱と共に、刃は振り落とされる。

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