死の厄災
その頃一方、視点は戻り、アルウェスと対峙したミトラ達もまた戦闘が続いていた。
「どうした、どうしたァ!そんなものかい、剣聖ミトラってのはァ!!!」
楽しそうに鎌を振り回し、迷うことなく接近していくアルウェス。ミトラはそれを必死に躱し続ける。憤怒の厄災との戦闘後ということもあり、疲労したぎこちない動き。相手の言葉に反応する余裕もない。
アルウェスの能力は必殺のモノ。鎌の刃に触れるだけで死ぬ。より詳細に語るのであれば『魂を刈り取る』というのが能力なのだが、そのような事をミトラ達が知っているわけない。
とにかく、確実に死んでしまう事が分かっているからこそミトラは躱し続けなければいけない。
だが、ミトラの思考もひどく鈍って来たのか。
後ろへ下がっていると、ドンッ、と背中に衝撃が奔る。
「ッ!」
それは建物の壁。どうやら逃げる方向を間違えてしまったようだ。
その絶好の機会をアルウェスは逃がさない。
「君の魂も、俺のモノだ!!」
鎌を大きく振り上げ、勢いよくそれを下ろそうとする。
「させない!上級魔術〈光縛!〉」
エルドの詠唱と共に、アルウェスの足元に魔法陣が展開される。さらにそこからシュルシュルと光の触手が伸びてアルウェスを束縛する。
「上級剣術〈瞬時断絶〉!」
ミトラは少ない魔力を刃に集め、剣を構えながら一歩、前へ出ると素早くアルウェスの胴体を眼にも止まらぬ速さで斬っていく。
しかし──
「効かないねェ!」
無傷であった。それは防御魔術ではない。身に纏った魔力だけでその攻撃を無力化させたのだ。
だが、そんな事はとっくに分かっていた。
これまでのアルウェスとは思えないほどの魔力量が彼の中で渦巻いているのだから。
「さて、これも面白くて良い術だけど……」
アルウェスは体全身に少しばかり力を入れる。その瞬間、光の触手が一気に引きちぎれる。。
「君、ワンパターンだよ。これしか魔術使えないのかい?」
他人を見下した嗤いに挑発の言葉。
「これならどうだッ、上級魔術〈スパークル・ショット〉!」
続けてエルドは新たな魔法陣を展開し、詠唱を開始。今度は矢のように鋭く尖った光が魔法陣から飛び出し、真っすぐアルウェスに襲い掛かる。
だが、アルウェスは片手で死神のような巨大な鎌をくるくる回し、綺麗に〈スパークル・ショット〉をはじいて防ぐ。
「はぁ……はぁ……!」
がくり、とエルドは膝から崩れる。
もうこれ以上、魔力は出ない。
どれだけひねり出そうとしても、ただただ苦しく、肉体に大きな負担がかかるだけ。
「俺……も…!」
二人がボロボロになっても戦っているのだ、自分も何かしなければならない。ミトラやエルドなんかよりも肉体ダメージは一切ない。だからこそ、自分が前に出るべきなのだ。そう思っているのに、魔力を練るどころか、体が全く動かないロームフのその表情はとても険しく、悔しそうなモノであった。
ただの魔力切れ。そう……魔力が無くなっただけなのに、身体が動かないとは──
「くそがァ!くそッ、くそッ、くそッ!!!!」
この戦場には自分の意思で来たというのに、こんなにも役に立てないことが歯がゆいなんて。
ロームフはひたすら自分の限界に激高していた。




