逃走 2
シリウスとアイギパーンの二人は崩壊した箇所を迂回し、落ちてくる瓦礫にも注意しながらようやく地下から出る階段へと到達する。
階段もまた崩壊しており、先ほどまで瓦礫で埋まっていたようだ。だが、人が通れるぐらいにはその瓦礫たちが退かされた形跡がある。きっと、シリウスが入ってくるときに退かしたのだろう。
その瓦礫で幅が狭まっている階段をようやく抜けるとそこは──
「冒険者ギルド連合本部、か」
かろうじてそれが分かるぐらいであった。
建物は半壊状態。まるで砲弾でも撃ち込まれたか。はたまた誰かが放った絶大レベルの術の巻き添えにでもなったのか。分からないがともかく、この周囲一帯が戦場になったかのような感じであった。
地上に上がった二人は、次に外へ出るために歩き始める。
階段のあった廊下を出た先は、広いロビー。きっといつもであれば、そこにある受付でスタッフが立っているのだろう。だが、今では冒険者どころか、スタッフの一人もいない。
「本当にどうなってるんだ?」
ここはギルド連合の本部だ。どんなに神都が危険な状態になっても、世界各地から優秀で実力のある冒険者が集うこの場所が破壊されることなど、想像がつかない。
「ある程度…安全な、場所に来たし……少し、状況を…話すよ」
そうしてシリウスは説明を始める。
黒いローブの者たちによって憤怒の厄災が神都に降って来たこと。化け物たちが闊歩していること。そしてメイガス・ユニオンの侵攻が始まったこと。
「なるほど、メイガス・ユニオンの侵攻に乗じて助けに来てくれたってわけか」
「そういう、こと」
しかし、説明してくれたものの、突然のこと過ぎてアイギパーンは状況を呑み込めなかった。数万年、神が住む都市として栄え、現代においては世界最後の神である調和神アフラが君臨するこの都市で、このような混沌極まる状況になっていることが信じられない。
そもそも、調和神アフラであれば、憤怒の厄災であっても、黒いローブの者たちであっても、メイガス・ユニオンの魔術師であっても、敵では無いはず。
調和神アフラが人類の成長を促すため、極力、人に手を貸さない。彼女自身が前に立って戦う事はないというのは知っている。だからと言って、こんな悲惨な状況になっても出てくることはないということはさすがに無いと思うのだが……。
「まぁ、そんな事は良いか」
とりあえず、今から我々がするべきことは──
「こんな地獄のような場所からさっさと脱出するぞ」
そのアイギパーンの言葉に「メイガス・ユニオン、と合流…は、しないの?」と尋ねるシリウス。
「メイガス・ユニオンの奴らは信用できん。仕事の依頼で付き合っていただけに過ぎないからな。それにお前が来なきゃ俺はあのまま瓦礫の中で死んでたかもしれない。お前しか助けに来なかったということは、アイツら、俺の事を見捨て得ようとしてたろ?そんな組織にはもう付き合えん」
「じゃ……ここから、どこに…向かうの?」
「そうだな……北はダメ。西方諸国は神都崩壊で数十年はゴタつくだろうし、ここは東方諸国あたり……領土がでかく、人口も多い大国である仙国であればしばらく潜伏先としても大丈夫だろうし、そこを目指すとするか」
「了解」
そうして二人は目的地も決まり、化け物の闊歩する阿鼻叫喚の地獄と化した神都からの脱出を図るのであった。




