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侵攻 4

 メイガス・ユニオンの指揮官の顔から嫌な笑みが現れる。


 「傭兵として恐れられていたべス・デルヘッドでも、多対一では勝てないようだな」


 ベスは所詮、人の枠から超えられなかった者ということだ。


 このまま物量で押し続ければ、状況は変わることなく、終わるだろう。


 そう思ったその時──


 「オラァァァァァ、おめぇら、なにしてんだこらァァァァァァ!!」


 何処からともなく響いてくるそのふざけたようなと口調セリフと共に数本の矢が飛んでくる。が、それは誰にも刺さることなく、そのまま自由落下して地面に突き刺さる。


 「なに?」


 何も起こらなかったとはいえ、突然のことで指揮官が戸惑うのだが──


 「まだ終わってねぇぞォ!!」


 続けて出たその言葉と同時に地面に突き刺さった矢が爆発する。


 「これ、は……!」


 敵、味方関係ない爆発にベスも巻き込まれ、火傷を負う。だが、悪いことだけではない。場が乱れたうえに、爆煙(ばくえん)と舞う土煙で視界が悪い。相手の動きが見えないが、それは相手も同じこと。これ機に一気に後方へ下がり、敵の部隊と数十メートル距離を取る。


 「くそッ、これほど爆発……上級弓術か!」


 ということは、先ほど市民と共に下がっていたあの弓聖が引き返してきたか?と考えた指揮官だったのだが、そこには全く知らない二人の影があった。


 「ウェルベスに言われて助けに来たけど……大丈夫か?」


 ベスに心配の声をかけるのは市民の護衛を冒険者と共に任されているはずのテルノドであった。


 「あぁ、無傷だ。どっかの馬鹿が起こした爆発の火傷を含めなければな?」


 嫌な言い方をしながらベスは何故か目の前で堂々と仁王立ちして立っている男を睨む。


 「俺が助けに来なかったらヤバかったスよね?もっと感謝しても……いや、しろ!!」


 それは自分の部下であり、冒険者ギルド連合本部の中で最も変わり者で厄介……じゃなく、異端児としてある意味有名なポットバックであった。


 「ちぃッ、面倒なのが二人、増えたか」


 冒険者たちの中ではまだ情報錯綜して困惑しているうえ、一般市民の避難も完了していない。この優位な状況でさっさと神都内を制圧したい所。


 これ以上、時間を奪われるわけにはいかない。


 「ここからは二手に分かれるとしよう。第二、第三、第四班は私と残って戦闘継続する。残りの班は第一班の班長を代理指揮官として別ルートから進軍せよ」


 その命令と共に、散開していくメイガス・ユニオンの兵士たち。二手に分かれると言っていたが、それでもその場には約八十人の魔術師たちが残っていた。


 (距離を取られてしまったうえ、魔力弾の物量攻撃も警戒されている。もう効きはしないだろうな)


 指揮官は少し考え、物量作戦からガラリ、と趣向を変える。


 「班長は私と共に前に出て戦ってもらう。残りの者は魔力弾や強化、治癒魔術による支援を行え!」


 「物量から少数精鋭に変えてくるか。ここは俺とテルノドで。ポットバックは邪魔だから散開した魔術師たちの討伐に行け」


 「了解!」


 そういってポットバックは素早い動きで去っていき、テルノドは杖を構える。


 「私、研究メインの魔術師なんで戦闘となると基本、後方支援になっちゃうんですけど……」


 「それで良い、問題はない!」


 ベスは覚悟を決め、テルノドから身体能力向上や魔力量増加の支援を受けながらも、メイガス・ユニオンの部隊に向かって一人で立ち向かっていく。


 「人間程度に我々が負けることはない!」


 指揮官とそれに従う班長たちもまた、ベスに向かって攻撃を仕掛けていくのであった。

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