侵攻 3
皆が去って数秒後……、ベスはバリアを維持させていたが、守るべき対象である市民が完全にいなくなったことでバリアを閉じる。
ベスは剣を構え、止まらず向かってくる魔力弾に対応しようとしたのだが、バリアが閉じるのを待っていたかのように、同時に魔力弾が止む。
「はぁ……はぁ……」
中級程度とはいえ、剣士のベスにとって魔術は専門外。脳と肉体に予想以上にかなり負担がかかってしまった。しかも、相手は魔術ではない、魔力をただ弾丸のように発射させただけの攻撃だった。剣術であれば難なく全て防げると言うのに……。
「ちぃッ、魔力弾程度でこんな苦労する日が来るとはな……」
ベスは決めた。
もう一生、誰かを守護するような依頼、任務を受けることしないと。
だが、体を張って誰かを守ったその勇姿に敬意を払う者もいた。
「仲間と市民を守り抜き、仕事を全うするとはな。劣等種とはいえ、さすがだ。ベス・デルヘット」
そのように言うのは魔術師部隊の指揮官であった。
「ははッ、敵でもそのように言われるのは多少、嬉しいことだな。だがそれ以上、褒めても俺から出るものは何もないぞ」
「そうだな。私も敬意以上のモノはないでない。せめて、その敬意に称して楽に殺してやる」
全ての魔術師の意識がベスに向けられる。
どうやら魔力弾の一斉射撃でこちらを仕留める気のようだ。
「はっ、舐められたモノだな」
さっきとは違う。
どれだけ魔力弾を撃ち込まれようとも、自分一人を守るというのであれば──
「殺せ!!」
指揮官の言葉と共にベスに向けて魔力弾が放たれていく。しかし、ザンッ!ザンッ!ザンッ!とその手に持った剣で全て華麗にはじいていく。だが、数百人が、止まることなく放つ魔力弾の全てをはじくのはさすがに不可能のようだ。はじき返せなかった一部がベスに着弾する。
しかし──
「この程度かよォ!!」
それは防御魔術ではない。単純に魔力を身に纏っているだけ。それだけで魔力弾の威力を完全に無力化させている。一体、どれだけの魔力を纏っているのか。
「噂通りの男だな。だが、お前は最強の冒険者アナトではない。調和神アフラのような頂点でもない。であれば、多対一で勝てるわけがない」
それに、魔力を纏うだけで攻撃を無力化出来るのであれば、そもそも剣で魔力弾をはじきはしない。であれば、なぜはじくのか。
答えは簡単だ。それだけでは限界が来るからだ。きっと魔力量の消費が凄まじくなるのだ。故にはじくという、魔力消費の少ない選択を取るのだ。
「迷わず撃ち続けろ」
指揮官のその業務的で冷徹な命令の通り、部下である魔術師は撃ち続ける。のだが、やはりベスには届かない。彼の動きは鈍らず、ダメージもない。
「ちぃッ、反撃のタイミングが無い!」
ベスは耐える。
反撃のタイミングが来るのを待ち続ける。
だが、そんなチャンスを相手は与えるつもりはないようだ。
(ここは一旦、退却したいが、そのタイミングも無ェ!どうする……)
ベスは思考する、この状況の打開策を。




