憤怒の厄災 8
ミトラは「はぁ、はぁ!」と荒く息切れをしている。
戦いが終わったことでホッと安堵し、その場に倒れるように座り込む。
ミトラの前には何もなかった。発動させた術で全てが瓦礫と化していた。そして、先ほどまで死闘を繰り広げていた憤怒の厄災も、姿も影すら残さず消えていた。
ただ一つ、奴の厄災の核であろう鎖一本を残して……。
「勝ったん、だな。俺たち」
ロームフもまた魔力切れを起こしてその場で倒れていたが、かろうじて意識が残っていたようだ。今にお瞼が閉じてしまいそうな、そんな霞む視界、彼はミトラは視ていた。
「やっぱり四大聖ってとてつもないんだな」
エルフ至上主義の国で生まれ、魔術実力社会で生きてきたロームフだからこそ、たった今、目の前で起こった事が自分の常識を覆すものであり、自分の住んでいた世界が小さかったんだと実感させられていた。
「ミトラ、俺たちもう動けないよ。約束通り面倒を見てくれぇ」
エルドは気の抜けた、だるそうな声でそのようにミトラへと言う。
「分かってるよ。だけど……私も全力尽くして…ヤバいんだ。少し待って、くれ」
ミトラもまた疲れ切った声であった。
あれほど温存させていた魔力が半分以上減ってしまった。化け物相手であれば問題はないだろう。しかし、ここで黒いローブの者たちであったり、厄災レベルの敵には善戦も出来ない。
エルドの言う通り、早くこの場から動いた方が良いのだが、体がまるで鉄の塊を背負っているかのように思い。きっと一気に魔力消費した影響だろう。
魔力切れで動けない二人よりかはマシなのだが、それでも十秒……いいや、一分でも良いから体を落ち着かせて、呼吸を整えたかった。
それに──
「あれの処理をどうするか」
ミトラの意識の先には一つの鎖。
憤怒の厄災の核である。
核を取り込み、厄災の力を扱うフードの者たちが出現して以降、調和神アフラの命令で核はその場で回収、破壊することになっている。
ミトラは立ち上がり、ゆっくりと厄災の核である鎖へと近づいて確認する。
鎖は一般人が触れるだけで大怪我してしまうかもしれないほど凄まじい魔力を帯びており、また近づくだけで発狂してしまいそうな狂気が渦巻いている。
「うーん、絶大剣術……で破壊、出来るのか?」
試してみないと分からないが……まだまだ戦いが続くと予想できるこのタイミングで絶大剣術は軽々しく発動出来ない。
「まぁ、回収だけしといて、破壊は後回しかな」
そうして回収しようと手を伸ばした時
「憤怒の厄災討伐、おめでとう」
コツ、コツ、コツ、という足音と共にそのような声が響く。それはエルド、ミトラの二人は聞いたことのある声であった。
そうして、三人の前に現れたのは死神のような巨大の鎌を持った少年。それは──
「「アルウェス!!」」
「おいおい、有名人を見つけたようなその反応、うれしいね。俺はとっても人気者だ」
彼は相変わらず三人を馬鹿にするかのような嗤っているのであった。




