憤怒の厄災 5
憤怒の厄災はここでミトラに意識を集中させて、一気に鎖を叩き込もうとする。
「お前さえ倒せば、あとはくだらない餓鬼どもだけだッ!!」
そうして勝利の一手を確信する。
だが、そういう時こそ──
ミトラに容赦無く放たれていく鎖が光の触手に拘束され、動きが止まる。
「なんッ……!」
これが一体、誰の魔術なのか。すぐさま理解した憤怒の厄災はエルドのいるであろう方向へと目線を向けようとするのだが
「おっらァァ!!!」
ボンッ!と顔面に襲いかかる衝撃。
それは杖を振り下ろしたロームフであった。
「こういう時こそ、油断する!人でも厄災でもこういうところは同じだな!」
エルドは魔法陣を展開し、魔術を維持させながら叫ぶ。
しかし、エルドの表情は苦痛のものであり、頭にズキン!と痛みが奔る。当たり前のことだ。ミトラ、自分に肉体能力向上の魔術をかけながら、上級魔術〈光縛〉の展開維持。脳にかなりの負担をかけているに決まっている。
「ちぃッ、その程度──」
殴られたところで一切、憤怒の厄災にはダメージがないようだ。衝撃があっただけで、痛みなども感じていない様子であった。
だが、それも分かっていたこと。
ロームフは次の攻撃のために魔法陣を展開していた。
「上級魔術〈マジック・バースト〉!」
魔法陣に流れ込み、溜まった魔力が一瞬で放出される。それはまるでダイナマイトでも爆発するかのような威力であり、憤怒の厄災はくらり、と態勢が少し崩れる。
だが、やはりダメージはほぼないようだ。その化け物はギロリ、とロームフを睨む。煩わしく、邪魔であると訴えかけているように……イラついた表情。
そんな表情、眼で見られてしまったロームフの背中からはじとり、と嫌な汗が大量に流れる。
だが、問題はない。
ロームフの目的は憤怒の厄災にダメージを与えることではない。
「ッ!!」
憤怒の厄災は今度、背中に強い衝撃を受ける。それは決してノーダメージではなく、防御のために纏っている魔力の膜を破壊し、肉体に到達する。それほどレベルの高い攻撃。
「さすがに上級剣術二つ掛けの剣撃は無事で済ませられないだろ?」
ミトラが近づいてきているのは分かっていた。しかし、攻撃するのであればさすがに詠唱をしたり、術発動のためにそれなりの魔力量が感知できると考えていた。
しかし、無詠唱で、全く魔力を感じなかった。
しかも、上級剣術二つ掛け……?
(この餓鬼共は俺の足元にも及ばないが……この女、ミトラは俺に首元まで来やがる!)
ミトラ単体では決して憤怒の厄災には勝てない。
でも、足元にも及ばない二人の餓鬼を使って背伸びすれば……それは首元を超え、憤怒の厄災を討伐するぐらいには到達するかもしれない。
「絶大剣術!」
ミトラは憤怒の厄災に致命的ダメージを与えるために、術の詠唱を開始する。




