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憤怒の厄災 4

 新たにこちらにジャラジャラと向かってくる鎖を、ミトラは避け、剣を突く構えで憤怒の厄災に向かって突進していく。


 (距離を取っていても、鎖で攻撃を受けるだけ。だったら距離を一気に詰める!!)


 距離がなければ鎖を鞭のように使った攻撃するのも難しくなるだろう。


 それを憤怒の厄災もわかっているのか、後方へと下がりながら右手の鎖をミトラへと当てるように引き戻していく。それはまるで蛇のようにうねうねとした、読めない動きであった。


 だが、ミトラは普段よりも良い眼、動きやすい体であった。というのは、エルドとロームフが魔術によってミトラの身体能力を向上させていたからだ。


 それをミトラはスレスレで躱し、もう一度、憤怒の厄災に向かっていく。


 その間、エルドとロームフはミトラへの身体能力向上魔術を維持させながらも、憤怒の厄災の後ろを取るような形で動いていた。しかし──


 「くそッ、ミトラも憤怒の厄災も速すぎる!」


 ロームフはそのように吐き捨てる。


 二人は自身にも身体能力向上の魔術をかけている。もちろん、ミトラにも持続させて魔術をかけているため、脳の負担がかなりかかっている。それでも無茶をすれば上級魔術を発動させる程度の余裕はある。まぁ、憤怒の厄災は上級魔術程度の威力で怯むことはないかもしれない。それでも多少のダメージを与えて意識を逸らすことは出来るだろう。


 だが、そもそも魔術を当てられない。近寄れないほどのスピードで移動する憤怒の厄災。それに対し、ミトラは少しずつ、それでも確実に憤怒の厄災との距離を縮めていく。攻撃を避け、受け止め、はじきながら。


 (どうやら、厄災討伐したっていうのは本当かもしれないな)


 ロームフはミトラの実力が思っていた以上のものであったのを認めるのであった。


 「ったく、うざったいわァ!」


 憤怒の厄災は仕留めきることの出来ないことに憤りを感じながら、魔力をさらに肉体から放出。新たな鎖が右腕から二本、左腕から三本、具現化される。


 「鎖はいくつでも生成可能ってことか……!」


 更なる数の鎖がミトラに向かってくる。


 鎖の動きは読みにくい。そのうえ、凄まじい速さ。そして一回でも当たると危ないと感じるほどの威力……。ミトラの思考速度が間に合わなくなっていく。


 (これを受け止めていたら。次の鎖の対処に間に合わない。ここは躱して……くッ!視覚外からもう一本、来てたのか!これは…はじくしか、ちぃッ!)


 ミトラのどんどん取れる選択が狭まっていくというのに、相手は鎖が増えたことでより取れる選択が増え、さらに攻撃の速度が跳ね上がる。


 そして、ミトラは正しく判断ができなくなったのか、致命的なミスをしてしまう。


 「ッ!!」


 鎖を払おうとした剣の刃に鎖が強く巻きつく。


 強い力で振り退こうろするのだが、全く微動だにしない。それどころか、どんなに魔力を込めても、どんなに身体能力向上させても、その腕では剣を動かすことが出来なかった。


 一体、どれほどの力で鎖は刃に巻き付いているのだろうか。

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