憤怒の厄災 3
ミトラは血まみれで油が付着した剣を布で簡単に拭き、刃に魔力を纏わせ、戦闘態勢に入りながら、彼女は二人の少年に語り掛ける。
「ロームフ、エルド。これ以上、被害を出すわけにはいかない。ここでコイツは倒す」
「それは厄災討伐をやるってことだよな?ここで……って、行けるのか?」
ロームフは尋ねる。
彼女が剣聖であるのは知っている。自分よりも、そしてエルドと呼ばれたこの少年よりも強いのも分かる。だが、たった三人で厄災討伐を果たすことなんて出来るのだろうか?
だが、それも彼がメイガス・ユニオンという組織に所属していた故の考え。
「あら、知らないの?まっ、セレシアは報道機関が国営で、政府によって厳しい情報統制されている国だからなのかもしれないけど、私とエルドは厄災討伐を経験済みよ」
「……マジで?」
ミトラに合わせて肯定するかのようにエルドもコクッと深く頷く。
セレシアは魔術実力社会で、エルフ至上主義国家。他の種族の中にも優秀な者もいるが、ほとんどは劣等であるという思想。それゆえ、セレシア国家の思想に邪魔な情報は国内に入らないようになっており、また他種族がどのような功績を出したか。理論を生み出したのか。そういうのは一切、一般市民が知る事は少ない。
もちろん、アナトレベルのような、厄災単独撃破し、世界から注目を浴びるような戦士となれば話は別なのだが……。
「私は二回、エルドは一回、経験済み。それでも今よりも多くの人数で戦ったし、あの時は──」
トーゼツがいた。
彼は四大聖でもなければ、職を持たない。しかしながら、誰よりも頼りになるし、信頼できる。だからこそ、これまでの厄災討伐は上手くいっていたと思う。
今回はそのトーゼツがいない。だからと言って逃げるわけにもいかない。
「でも、今回は討伐しなくても問題はない。厄災には二つの期間があるのは知っているわよね?活動エネルギーを補充する準備期間と、活動期間。被害を抑えるだけというのなら、ここで今、奴にエネルギー切れを起こさせて眠らせるだけでも良い」
「いいや、そうは言っても簡単なことじゃないだろ!」
そのロームフの言葉に対し、
「じゃあ、逃げるか?」
エルドは発言する。
「……ッ、くそ!」
杖を構え直し、戦闘態勢へと入る。
「俺をエネルギー切れにさせるとは……大言壮語な事を言ってくれるわ。片腹痛い。ここで三人ぶち殺してくれるわッ!!」
憤怒の厄災は右手に巻き付いている鎖に魔力を送ると、ジャラジャラと鳴らしながら、まるで体の一部にように自在に操作しながら三人に向けて撃ち放つ。
それをロームフ、エルドは必死に避け、ミトラは剣でその鎖を受け止める。
「ほう、やるな。女!!」
憤怒の厄災はミトラを睨みながら、今度は左腕の鎖でミトラに追撃を入れる。




