憤怒の厄災 2
憤怒の厄災は触手のように魔法陣から伸びている、鎖を受け止めた光を眺めている。
「ほう、面白い魔術だ。だが──」
鎖により多くの魔力を流し、バキンッ!とその光の触手を破壊する。
「やっぱり簡単に破壊されるか……」
ロームフを助けた少年は、杖を構える。
「動けるか?君を逃がす時間だけは稼いでみるよ」
その言葉を聞いて、ロームフは驚く。
「ほう、言ってくれるな。ガキ」
憤怒の厄災は今度は両手首の鎖に魔力を送る。
「十秒も持たんわ。自分の身の丈も分からんとは……。イラつかせてくれる!」
まるで蛇に睨まれた蛙のような、そんな気分にさせてくれる表情でこちらに向かってくる。
「いいや、三十秒ぐらいは頑張ってやる」
そういって、少年は構えを解かない。しかし、その表情は明らかに作ったモノで、その裏はかなり恐怖していると思われる。それでも、彼の動きには迷いはない。
必ずロームフを助ける、その強い意志でその少年は立ち向かおうとしている。
その姿を見て、ロームフは訊く。
「アンタ……実力で言えば俺と同じ……いいや、俺より少し上ぐらいのはずだ。勝ち目が無いことも、逃げ切れるわけがないことも分かっているはずだろ!!なのに、どうしてそんな事が言えるんだ……」
その少年は迷わず答える。
「憧れている人だったら、絶対こうすると思ったから」
それを聞いて、ロームフはこの言葉を思い出す。
『誰を信じるのかは勝手だが、自分の想いだけには裏切るな』
自分の想い……。
今、この場面において自分の想いは何だ?
逃げることなのか。諦めることなのか。死ぬことを受け入れてしまう事か。それともこの目の前に居る彼に全てを任せてしまうことなのだろうか?
否、違う。
自分の想いを裏切りたくない、のであれば──
「何を考えてんだ、俺は……。くそッ!」
ロームフもまた杖を構える。
「ほう?先ほどとは違う眼をしている。ったく、諦めの悪い、忌々しい眼をしているな」
より憤怒の厄災は怒気を放ってくる。
「逃げてたまるかよ。俺はもう、何かを言い訳に逃げたくはない!!」
ロームフは魔力を放出し、身に纏う。
「君も戦うのか?」
「もちろんだ。きっと、アンタだけじゃあ……いいや、俺が居ても結果は変わらないかもしれない。でも、一人で戦うよりも二人で戦った方が勝率が上がるに決まっている」
「……そうだな」
二人はそうして杖を構える。
「だったら、三人だったらもっと勝率が上がるわよ」
そこに、もう一つの声が響く。
二人の少年はその声を知っていた。
「「ミトラ!!」」
彼女の体はボロボロで、あちこち血が流れているが戦闘に問題はないようだ。どうやら治癒魔術である程度、回復していると思える。また彼女から感知できる魔力量も、戦うには申し分ない量だ。




