暴力 3
吹っ飛ばされたアナーヒターは魔術によって痛覚遮断しているのだが──
「痛たい……?」
魔術が効いていない。
治癒魔術で頬の傷も治した。のにも関わらず一切、痛みが引かない。いいや、それだけじゃない。頬の痛みが体の中で何度も反射しているようであった。
ズキズキと体中が痛む。
(前に戦った時もそうだけど……やっぱりこの痛み。彼女の力は──)
そのように思考したのちに、アナーヒターは意識を切り替える。
目の前には拳を構えてこちらを待っているイルゼがいる。
「おい、追撃しなくても大丈夫だったのか?」
アナーヒターはイルゼに問いかける。
「問題ないし、まだお互い軽く小手調べしただけだ。ここから成長している部分の見せどころって奴じゃないのか?」
そう言ってイルゼは両手に魔力を込め、詠唱を行う。
「固有能力具現化〈ウォークライ〉!」
その瞬間、両手の魔力は形が変化し、具現されるとグローブへと成る。グローブは指関節の部分に鉄が埋め込まれており、まさにメリケンサックやナックルのような武器となっていた。
「……固有能力具現化、か」
アナーヒターは百年ほど生きているエルフであり、術聖。その術の事もなんとなく、しかもかなり頭の片隅の方に知識として知っていた。
固有能力とは一部の者しか持たない力であり、それは多種多様。戦闘特化したモノもあれば、天気を予測したり、感情を自分の意思で完璧にコントロールすると言った日常生活でしか使えないモノもある。
そして、それらの能力を頭の中で物体として意識し、それを自分の魔力で物理世界に顕現させる術。それが固有能力具現化である。
「取り込んだ厄災の力を固有能力と認識して、発動させたというわけか」
「その通り。まぁ、アルウェスが前からやっていたから可能ということ自体は知っていたと思うけど。私はこの術、意味ないでしょ、と最初は考えていたけど」
そうして、イルゼはグローブのナックル部分同士をガンガンッ!とぶつけ合わせる。
「かなり便利なんだよね。ヤバいほど能力の効果出るし!」
そうして、イルゼは素早く動き出す。
先ほどの翻弄する動きとは違って、今度はアナーヒターに真っ直ぐ向かってくる。
それに対し、アナーヒターは無詠唱、無魔法陣で術を発動。彼女の目の前に壁型のバリアが展開される。そう、前にイルゼと戦った時にも使っていた相手の攻撃を一部、反射させる防御魔術〈リベリオン〉である。
イルゼもそれは分かっていた。しかし、迷うことなくその拳をバリアへと向ける。パリッ!とガラスが割れるようにバリアは粉々になり、その破片が宙を舞う。
そして、バリアを破壊した衝撃がイルゼに戻ってくる。はずなのだが──
「効かないねェ!」
痛みで怯むことはなく、彼女の動きに変化はなかった。
「なッ!」
ボンボンッ!と右拳、左拳の攻撃が交互にアナーヒターに襲いかかる。




