刃の厄災 6
はぁ、はぁ、と息切れしながらも魔術で肉体治癒させながら、刃の厄災を真っすぐ見るミトラ。
刃の厄災もまた、ずっとミトラを見下ろし続けていた。
その姿、それは、まだやるか?と尋ねているようにも感じるのであった。
(私を……まだ敵とみなしてさえいないのか…だったら!)
声には出さず、しかし歯をギラり、として笑う。それは自分の力不足に、不甲斐なさ、そして少しでも勝てると思っていた自分の力の過信していたことへの悔しい笑いであった。
それと同時に、トーゼツの言葉である『諦めない』というものを彼女は脳内で反復させていた。
「絶大剣術!!!!!!」
彼女は、精一杯、叫びながら剣を一度、鞘の中へと収める。
「さっきと同じ剣術……ではないな!」
何かを察知したのか、刃の厄災はその大剣を以てすぐにミトラを殺そうと勢いよく振り下ろす。
しかし、彼女の剣術の方が速く発動する。
「〈ケレリタス〉!」
それは、一筋の光。
まるで、進む先にある障害すべてを焼き切るかのような、明るく、鋭い光の線が厄災の持つ大剣を真っ二つに斬り落とす。
「ッ!」
それは、ミトラの剣の痕跡。速すぎて、刃が反射する太陽の光のみが軌跡となって残っているだけ。
しかし、刃の厄災であっても、その剣を完全に捉えることは出来なかった。
「あああぁぁぁぁぁぁぁ!!」
そこで彼女は止まらない。
もう一度、刃を返し、今度は刃の厄災に向けてその一撃を放つ。
「一度の詠唱で、絶大剣術の連続発動だと!」
いいや、一度だけではない。
バスッ!と鎧と共に胴体を切り裂くと、再び刃を返し、今度は頭に向けて剣を放つ。
一度の詠唱で、三撃の絶大剣術。
奴は体勢を崩すと、すかさずミトラは強く蹴りを入れる。
ダメージを負っているうえ、油断でもしていたのか。ボンっ!とその巨体を押し、後方へと吹っ飛ばす。
「はぁ!はぁ!」
体、全身からありえないほどの汗が吹き出してくる。彼女の足元には、その滴る汗によって少しばかりの水たまりが出来ていた。
「ッぁ……!」
剣を持っている右腕に走る激痛。
それは、無理をしすぎたことによる痛み。筋繊維がちぎれ、いくつかの血管が内部で破裂した痛みであった。
「治癒……いや、複雑すぎて無理ね」
回復の魔術というのは、ある程度、自分がどの箇所を、どのように負傷し、どのような再生が必要なのかを把握していないと発動不可能の魔術である。
彼女は回復魔術が使えても、医者ではない。
治療を諦めて、歯を食いしばり、痛みに耐えながらも再び剣を持つ。
「……」
彼女は、恐る恐るその化け物の姿を見る。
それは、地面へと倒れていた。そして斬られた胴体と首からドクドク、と不気味で、奇妙な、そして恐ろしいほどの真っ黒な液体を溢し続けていた。




