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暴力 2

 ボキボキ、と両手を鳴らしイルゼは拳を構える。


 「準備はオッケーって感じか?」


 「そうだ。お前をボコボコにする準備が出来たぞ!」


 その一瞬だった。


 アナーヒターがイルゼへと急接近していた。


 それはイルゼの眼で追いきれないほどのスピード。気が付けばもう目の前に居た。


 「はや──」


 反応する暇もなく、アナーヒターの術が来る。


 杖に魔力が込められ、無詠唱、無魔法陣で展開されたその魔術は──


 「……転移魔術かよ」


 そこは知らない場所。しかし風景からして神都内であるのは確かなようだ。


 「ここなら一般人を巻き込む可能性が少ないからな」


 街の中にはまだ逃げ遅れている者もいるかもしれない。だが、少なくとも今、冒険者たちで避難させている一般市民に被害が出る事はないだろう。


 であれば


 「ここなら本気が出せる」


 先ほど転移魔術を展開した時とは明らかに違う雰囲気。


 それは敵意。


 ぶわり、と彼女の体内から発せられている魔力量はアナトに負けないレベルのモノであった。


 「じつは私の実力はアナトと善戦出来るレベルなんだ。その私が周囲を気にせず、本気を出せるってなったら、お前に勝ち目があると思うのか?」


 無慈悲な眼。


 容赦のない表情。


 圧倒的な魔力量。


 それを視てなお──


 「良いねぇ!最高だ!!」


 イルゼの気持ちはものすごく昂っている。


 彼女の纏う魔力は、アナーヒターほどの量ではない。しかし、彼女の感情を表現しているかのようなその激しく燃えるような動きを見せる魔力は一瞬だけでもアナーヒターの心をひどく揺さぶる。


 「行くぞ、アナーヒター!」


 イルゼは脚に魔力を込め、一気に地面を蹴り上げる。それはまさに音速の如きスピード。


 しかし、アナーヒターはしっかりその動きを眼で捉えていた。


 真っすぐアナーヒターに向かわず、彼女を混乱、翻弄させるような激しい動きをイルゼは見せる。


 しかし、冷静に動きを見て、攻撃を待つ。


 (こういう馬鹿は──)


 次の瞬間、イルゼは再び強く地面を蹴り上げ、拳を振り上げてアナ―ヒタ―に急接近する。


 「カウンターが一番効くんだよ!!」


 ドンッ!とまるでイルゼの動きが読めていたようで、振り上げていた拳ごと彼女を莫大な魔力の込められた杖で地面に強く叩きつける。


 ふらり、と態勢が崩れ、拳から血を出すイルゼ。


 「なッ……に?」


 どうやら杖が頭を掠ったようだ。脳震盪を起こし、視界がぶれる。体が自由に動かず、魔力操作も思ったように出来ず、とてもおぼつかない。


 そこにドンッ!ドンドンッ!と杖による連続攻撃が放たれる。


 もう一撃、そのように杖を振りかざしたその時、今度はイルゼの拳がアナーヒターの頬に直撃する。


 「おらァ!!」


 綺麗に入ったその拳にイルゼが一気に力を入れ、そのままアナーヒターを吹っ飛ばす。


 「ちぃッ!痛みで脳の震えが収まって来たぜ!ったく、前回戦った時よりも強くなってやがるな!ははッ、これだから殺し合いというのは面白い!!」


 ボコボコ殴られていたというのに、イルゼの顔から嗤いは一切、変化がなかった。

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