暴力
同時刻、そこは神都の北西方面。
ぞろぞろと人々が列を成して避難していた。その彼らを保護、誘導しているのは冒険者たちであった。
この神都ではもう安全地帯と呼ばれる場所は存在しないのだが、さすがにアナトとアムシャ、サルワの戦っている東南部とは反対方向へと向かおう、北西へと向かっている。
『後方から化け物たちが来ている。民間人も何人か死亡者が出ている。人手が欲しい』
「分かった、こちらの方から十人ほど送ろう」
冒険者たちは通信魔術のかけられた木の札で連絡を取り合っている。これで被害を極力出さぬように頑張っているのであった。
その列の最前線。人型のタコのような化け物を倒し、避難経路を確保しながら突き進んでいるのはアナーヒターであった。
もちろん、彼女単独ということではない。数人、ついてきている戦士もいるのだがアナーヒターが優秀すぎる故に彼女の取りこぼしたり、仕留めそこなった化け物を倒すという作業になっていた。
「さすがですね、アナーヒター様!」
戦神アナトと同格なのでは?と感じてしまうほどのその強さに後ろからついてきている民間人は安堵と信頼の表情を、冒険者たちは同じ戦士としての羨望の眼差しを向けている。
これが魔術師の高みであり、戦士としての上位格。
術聖アナーヒター。
そして、その彼女を羨望でも信頼でもない、異様な眼差しを向ける影があった。
「見つけたぞ!」
その影は凄まじい勢いで地面を駆け出し、アナーヒターに接近する。
しかし、そこにヒュッ!と矢が二本飛び出し、その影に直撃する。
「嫌な気配がすると思っとったら……何者じゃ、お前は」
アナーヒターの背後から現れやそれはギルド連合本部では年長者である弓聖ウェルベス・コットロルであった。
化け物とは違う。明らかな人の形。しかし、その纏う雰囲気はまさに狂気であり、恐ろしい存在であると一目見て理解できる。ゆえに人々の脚は止まり、冒険者たちも動かなくなる。
「大丈夫だ、ウェルベス。コイツの狙いは私だけのはず。そうだろう?」
その言葉に、影はニヤリ、と嗤う。
「あぁ、そうだよ!久しぶりだな、術聖アナーヒター!!あの時殺しきれなかったら、今回こそアンタをぶち殺しに来たぞ!!」
その影の正体は、イルゼであった。
アナーヒターは木の札を取り出し、連絡を入れる。
「聞こえるか、べス」
『なんだ?』
「お前に避難誘導を任せる。お前は……信用できないがそれでもお前の指示と判断は適切だと私は思っている。大丈夫か?」
その言葉にはぁ、と魔法陣越しからめんどくさそうな溜息が出てきて数秒後──
『前で何が起こっているのか知らないけど、分かったよ。ほかに使えそうな奴はその場にいるか?』
「ウェルベスがいる」
『あの弓聖の爺さんか。だったら問題ない。今から爺さんとで避難経路を開ける。お前は目の前のことに集中しておけ』
そうして、連絡が切れ、アナーヒターは眼の間にいるイルゼへと意識を向ける。




