天変地異 9
「さて、そろそろ終わりにするか」
そのようにアムシャ言うと彼ははふわり、と宙へ浮かび始める。
アナトとサルワは身構える。
本当に神話の中の英雄、アムシャなのかどうかは結局分からない。けれど、アムシャと名乗るレベルの実力を持っているのは確か。そんな彼が終わりにすると言ったのだ。どんな攻撃が来るか。
その二人の様子を上空から見下すように視認したアムシャは笑う。
「そんな身構えるな。ここでキサマらを殺すつもりはない」
調和神アフラの視た人類の可能性。
それも自分も見ていたい。
しかし、彼女とは違う感情。
この世界を人類に託すという意思を持った彼女の計画。全体を想った計画。しかし、アムシャはその反対。自分が楽しければそれで良い。自分個人が楽しむために、人類を成長させる。
自分のおもちゃになってくれればそれで良い。
この二人はまさに──
「どう成長するか、楽しみだ」
そう言ってアムシャは両手に魔力を込める。
「これは試練だ。殺すつもりはない。だが、耐えて見せろ。それでこそ俺に相応しい宿敵となる!」
そうして、アムシャを中心に半径三キロほどの巨大な魔法陣が上空に展開される。
「刮目しろ、これが神の頂きだ」
アムシャは詠唱を開始する。
天上天下の尺度に馳せる
報復たる未練
先に平等など無い
止める術無し
神術〈バスコー〉
それはまさに天災。
大地の者たちが罪を犯したゆえに降りかかる天罰。
破壊の光が天から一斉に降り注いでいく。
神都内にいる者全員がその光を目撃する。
「なんだ……あの魔術は!?」
冒険者たちと一緒に民間人を神都外へ避難させようとしているアナーヒターは現代魔術では到達しえない、まさに人知外の術を見て圧倒される。
あれは……人類が永遠に等しいような時間をかけてようやく掴み取れるであろう力。
その一端を目にした彼女は──
「ははッ、やはりあれはアムシャか。予想以上の化け物だな!」
化け物が闊歩する街中を死神のような鎌を抱えて歩きながら、アルウェスはそれを眺めていた。
「……」
トーゼツは言葉も出なかった。
あの戦いの中、姉であるアナトの気配を感じていた。
まさか……とは思うが、しかし──
「無事でいろよ、クソ姉貴」
トーゼツはそのように祈っているのであった。
「クククッ!人類相手にこれを使う事があるとはな。封印前の俺だったら考えられない話だ」
アムシャが降り立った大地には何もなかった。
建物はない。
瓦礫の一部もない。
草木もない。
まさに生命を感じない焦土と化していた。
たった一分のうちに神都の南東全域が完全消滅してしまったのだ。
「さて、じゃあ次の暇つぶし相手を見つけに行くとするか」
そうしてアムシャはそこから歩き去っていくのであった。




