天変地異 8
アナトは周囲の事を一切気にせずに魔術を発動させたために、その炎は彼女から少しばかり離れていたアムシャにも襲い掛かってくる。
だが、アナトが本気で発動させた〈ギガ・ブラスト〉からバリア一枚で身を守ったアムシャがこの炎を恐れることはなかった。彼は魔力を肉体に纏わせる。それはアナトのように……いや、それ以上に緻密で膨大な魔力の膜はアムシャの肉体まで炎が到達することはなかった。
しかし、彼はとても驚いていた。
「無詠唱で魔法陣も無し。それでこれほどの規模の絶大魔術を発動できるとは!クククッ!サルワのような可能性は無いが、それでも!!俺と対等に戦えるほど充分な実力をもう持っている!」
良い。
実に良い。
同胞の地へと向かった調和神アフラよ。聞こえるか!
お前の計画は……。新たに訪れるであろう人の時代は……!!
「貴様は間違っていなかったぞ!」
なんと心昂らせてくれるのだろうか!
アムシャは体内に溜め込んでいた魔力を一斉に外部へと放出する。
それはアナトの炎を掻き消し、サルワの支配の力を無効化させる。
「なッ!!」
まさか、自分の力が無効化されるとは思っていなかったサルワは一瞬で肉体に重力が掛かり、地上へと落ちていくのだがすぐさま浮遊魔術で肉体を浮かせ、ふわりふわりとゆっくり地面に降り立つ。
また浮いていた地面、建物も無効化された影響でどんどん地面へと落ちていく。かなり高い位置から落ちていくその瓦礫は魔力が無ければ当たるだけで即死の威力の雨となって無残に三人に降り注ぐ。
そんな地獄のような光景の中、地上で三人の顔が相まみえる。
「どうやって私の能力を無効化した?」
サルワはアムシャを睨みながら質問する。
「お前はこの星の力……重力を支配して物体を浮かばせていた。だろう?」
それを聞いて、アナトは驚く。
(そうか……重力か!だから私の力では抵抗することが出来なかったのか……)
戦神と呼ばれるアナトと言えど、重力に逆らうことは出来ない。現代魔術でも不可能である。そもそも重力というのが万有引力と星の回る遠心力によって生まれる力。それを操るというのはどれほどの計算とエネルギーが必要というのだろうか。
しかし、サルワはそれを厄災の能力だけで成しえていた。
(実力不足だけど、やはりあの能力は危険だな)
ここで潰しておかねば……必ず大きな障害になる。
アナトは改めてサルワの実力を認めるのであった。
「確かにその通りだ。だからと言って、私の能力無効化の説明になっていない。お前が重力操作を行ったならともかく、そもそも私の能力を掻き消したのだ。そんなの不可能だろ」
「確かに、人間には出来ないだろうな。だが神の権能は俺との相性が悪すぎるってだけの話だ。俺は神の中でも異端だからな」
「……」
アムシャの説明がどういう意味を持っているのか。相性とは?異端というのは?それをサルワとアナトは今は知ることはなかったのであった。




