天変地異 2
アナトが再び槍を構え直したのを見て、サルワもまた戦闘体勢を整える。しかし、このまま戦い続ければ押されて負けるのは自分であると彼女は理解していた。
(魔法陣、詠唱無しで絶大レベルの術をポンポン出してくる。通常の人間だったら魔力量は空になるし、肉体も術の負荷に耐え斬れずに四肢爆散していてもおかしくないだろうに……)
もちろん、サルワの厄災の力だって負けてはいない。絶大レベルの術よりも魔力効率は良いし、その効果も絶大だ。しかし、アナトは厄災の力でカバーできないほどの多様な術で攻めてくる。
こちらも、策を講じ、力を応用して、なんとかアナトを出し抜かなければ──
しかし、アナトもまた一切の油断をしていなかった。
同じ手で芸がないとはいえ、まだ見せてない力もあるかもしれない。刃の厄災の力だって、さっき手に入れたばっかりで使いこなせているとは言えないけど、この戦いで確実に成長している。予想していない一手を繰り出す可能性もある。
二人は戦いの構えだけを取って睨み合う。
そして、アナトが動き出そうとしていたその時であった。
「やはり、お前ら。面白い気配と匂いをしているな」
新たに現れた第三者の声。
それは突如、二人の間へと降り立って現れる一人の男。
しかし、見てすぐに理解する。
(何だ……この気配は!?)
アナトは驚く。
人では無い。厄災ではない。神に似た……でも神とも違う不思議な雰囲気を纏ったそれは──
サルワもまた同様に気づく。
「これは……一体?」
人の形をした正体不明のナニカ……それは理解不能であり、サルワの思考を鈍らせ、遅らせる。
「ほう。一眼見てお前らは気づくのか」
男はにやり、と笑う。
(サルワも動揺しているな……だったら黒いローブの奴ら側の者じゃない。けど、こっちの仲間とも思えない。とりあえず──)
「アンタは何者?ここに現れたのは何か意味があって?」
アナトは本人に聞く事にした。
「相手よりもまず自分から挨拶したらどうだ?と言ってやりたいが……まぁ、良い。俺の名はアムシャ。神の中の神だ」
「「アムシャ!?」」
二人はその名を聞いて驚く。
神話の中で語られる、神と子のハーフであり、厄災を討伐した歴史上初の者である。
アナトは一般教養として認知しており、サルワもまた自由の身になった時、人の社会や世間を知るために勉強して彼の存在は知っていた。
しかし、調和神アフラからより詳細な事を聞いていたのか。アナトはさらに深く尋ねる。
「アムシャは封印されているはずだけど?」
「アフラの奴が死んだんだよ。だからあの女の封印が解けたのさ」
まさか……あの調和神アフラが死んだ……?
アナトは衝撃の事実にとても驚愕するのだが、確かにあの人の気配がこの都市から一切感じない。それに街の外に展開されたあの結界。やはり──
そこでアナトは思考を切り替える。今は考えても無駄な事を思考する余裕はない。とにかく、目の前の敵と、アムシャと名乗る男に集中するべきだ。




