表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/604

刃の厄災 5

 ミトラの攻撃を受け続けてなお、その体が倒れることはない。しかし―


 (上級剣術を、これほどまでに使いこなすのか!?)


 刃の厄災は、まだまだ余裕の思考、態度であった。しかし、かつて見たことのないほどの、相手の剣士としての才能に驚いていた。


 本来であれば、剣術のみならず、魔術であっても、槍術であっても、一度の詠唱で一回のみ発動。再度、術を用いるのであればもう一度詠唱して魔力を消費させなければならない。


 しかし、例外はある。


 それは、一度の詠唱で一回の発動というのはこの世の理だから、と言った話ではなく、単純に術者の魔力や思考、集中力と言った脳のリソースの問題であるからだ。


 では、リソースを使わないものとはどういうものだろうか。


 簡単な話、低級レベルの術である。さらに低級レベルの術であれば、誰でも会得可能である。


 低級魔術を剣士や弓士が使うのは多々あること。またその逆で剣術や弓術を魔術師が身に着けているというのも珍しい話ではない。そして、それをその道のプロ……つまり剣士が低級剣術、弓士が低級弓術を用いるのに多くのリソースを割くことになるだろうか?


 否、なるわけがない。


 そのことから、詠唱一回につき、発動は一回、というものを無視して何度も術を発動させることが可能になるということだ。


 しかし、今回、ミトラが用いたものは上級剣術。しかし彼女は一回の詠唱で、何十回、何百回も発動させた。それは彼女が剣聖であるからこそ、成せる芸当であった。


 「本当に見事な……優れた戦士だ。だが」


 ドン!とまたもや強い衝撃をミトに襲い掛かる。


 「ッ!」


 ズザザザッ!と地面と靴底を擦らせながら、後ろへと下がっていく。


 刃の厄災の初撃と同じ、腹部に向けて大剣での攻撃であった。しかし、奴の攻撃を一撃でも喰らうとまずいと自分の身で理解されていたため、今度はミトラは多大な魔力で身を事前に守っていた。


 それでも、なお―


 「くッ、ハぁ!!」


 膝を地面につけ、口から血を吐き出す。


 (魔力を纏って身を守っていたのに……なんて威力だ…!)


 しかも、同じ腹部への攻撃。治癒しているものの、折れた骨も、臓器の細胞も。脆くなってしまっている部位だ。そこを再び狙われてしまった。


 「中級魔術〈ミドル・ヒール〉!」


 同じ魔術で再び彼女は肉体を再生させる。


 「見事な技であった。あれほどの威力と速度、まさに、反撃の余地もなかった。冷静に、そして落ち着き、そこから集中しなければ、お前の攻撃よりも強く素早い一撃を我は繰り出せなかっただろう」


 そこに、感情はない。


 ひたすら、たんたんと事実を述べているようであった。


 それは分かっている。ミトラも理解していた。


 それでもなお、それは煽りのように頭に響いてくる。


 刃の厄災はどすん、どすん、とその巨体で地面を震わせながら、ミトラへと接近する。しかし、追撃してくる様子はなく、ただ倒れかけるミトラを見下ろすだけであった。


 (く、くそっ、追撃さえしてくれないのか!?)


 まるで子供の遊戯に付き合ってくれているかのような、その余裕さ。


 そこに、焦りもまたミトラの脳内に生まれ出てくる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ