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最後の砦 10

 アルウェスはすぐさま後ろへ飛び下がり、邪魔にならないようにしゃがみ込む。


 その体はガタガタと震え、恐怖していた。


 (この俺が……狂気を振り撒くこの俺が、恐怖しているのか!?いいや、それどころじゃない。嗤っていない今の俺は人間の心を──?)


 そのような思考が巡るが、男が歩き出したのを見て、すぐさま思考が停止する。


 あれは……触れてはならない者だ。


 神でも無い。しかし、人でも無い。


 あれは──なんだ?


 アルウェスの両腕の断面からは血が流れている。すぐに治癒しなければ出血多量で死ぬだろう。もちろん、取り込んだ魂を使えば簡単に再生することが出来る。しかし、今やることでは無い。


 余計なことをすれば……彼の機嫌を損ねれば……一瞬で死ぬ!


 「ふむ、面白く無い。愚かとはいえ、この俺に刃を向けたのだ。準備体操ぐらいにはなると思ったが。まぁ、よい。愚か者とはいえ、獣の本能すら忘れる馬鹿ではないということか。とはいえ知能は獣レベルか。それに……その力。俺が昔、気まぐれで倒した死の厄災の匂いだな」


 その言葉を聞いて、アルウェスはその者の正体に気づく。


 悪神から生まれ落ちた十五の厄災……そのうちいくつかは既に討伐されている。しかし、最初に討伐されたとされている厄災は神話の時代に人と神の血を持った者が倒したという──


 そして、死の厄災こそ神話で語られる最も恐ろしい厄災であり、最初に討伐された厄災。


 であるならば──


 (彼があの神話に語られる神、アムシャか!!)


 古今東西、厄災討伐を単独で成し遂げた英雄として崇められた神。


 しかし、どうしてアムシャが突如、現れたのか。


 調和神アフラが神代最後の神ではなかったのか。


 その正体を理解してもなお、謎が多く、状況が読めない。


 「まっ、それもまたどうでも良いことか。厄災に適応する人間もいておかしくはない。しかし、知っている奴の気配がない。神代の神々は全滅か」


 どうやら神代最後の神になってしまったようだ。俺が神代を守る最後の砦か。


 それでもアフラの計画通りに進むのであれば、俺は──


 「そんな事は今はどうでもいいか。それよりも気になるのはあの気配だな」


 どうやらアムシャはとっくの前にアルウェスへの興味が無くなったようで、彼の意識が遠くを見ていた。


 「あれは……厄災の匂いだが、神にも近い。悪神に最も近い厄災、か。それにもう一つの気配は神と人の混じった匂い。アフラの計画にあった神の成りかけ…………にしては──」


 しばらく考え込んだ後、アムシャの口角は上がり、脚に力を入れる。


 「少し遊べば正体は掴めるかもな!」


 そうして、彼は床を強く蹴り上げると、強く飛んでいく。


 向かう方向では建物が宙に舞い、しかしそれに対抗するように炎が竜巻のように渦巻いている。まさに天変地異といえる状況。


 「サルワとアナトの方へと向かったのか……」


 アルウェスは彼がいなくなったことで安堵すると同時に狂気で再び心が満たされ始める。それと同時に腕を治癒し、まるでトカゲのように新たな腕を生えさせる。


 医療の知識をアルウェスは持たないが、莫大な魔力量によって絶大級の治癒魔術を可能にする。


 「さて……変なことに成り始めたけど、これも面白い!!しかし、あの結界が邪魔で脱出も出来ないな。まっ、一つ考えもあるし、当初の予定通り、トーゼツ・サンキライを殺しに行くとしよう!!」


 そうして彼は落ちていた大きな鎌を持って、その部屋から去っていく。


 

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