最後の砦 5
ザクリッ!とアルウェスに首を切断された調和神アフラであった。が、切断面から漏れ出る魔力がすぐさま頭の形を作り、あっという間に具現化する。
「やっぱ再生されるか……。と言ってもエネルギー体のお前にダメージ云々なんてあるとは思ってないけどさ。まっ、お前の持つ魔力、想いの力、そして魂。その全てのエネルギーを俺の鎌で刈り取ってやる」
アルウェスの魔力はさらに増加する。そのぶん、彼の取り込んでいる魂はどんどん魔力を生成する燃料として使い果たしされていく。
「確かに今の貴方であれば、私を殺せるかもしれない。けど、この世界に生まれ落ちた神々の頂点に立つこの私に簡単に勝てるとは思わないことです」
調和神アナトの纏う魔力の動きに変化が生じ始める。
「貴方はまだ力を持つだけ。力の使い方、技術が半端である以上、勝率はまだまだ低い」
その魔力の動きは、魔術の発動にとても酷似じている。
魔術とは、魔法陣に描かれた図形に正しい順番に、正しい量の魔力を流すことによって発動する。そして、調和神アフラの魔力の動きはまさにそれに似ている。
まるで魔法陣に魔力を流し込んでいるような……そんな動き。
「貴方に見せましょう。神々の力、その真髄を」
どんどん彼女の纏う魔力は激しく揺れ動く。二人の居る部屋……いいや、建物がその魔力の動きに耐えきれず、そのものが震えだす。
さらに、この不思議な部屋も同時に動き始める。
空が広がっていた空間に亀裂が生まれ、崩壊すると世界が漆黒へと達する。変化が無いのは床で回り続ける魔法陣だけであった。
そして、彼女は詠唱する。
「神術〈ブンダヒシュン〉」
その瞬間であった。
それは痛みもない。
苦しみも無い。
しかし、明らかに抜けていく。
それは力。
存在。
アルウェスという個人。
ハッキリとしていた物理世界が砕け散り、それは淀み、泥と化していく。そしてアルウェスもまた存在が不透明になり、世界の泥と一緒になっていく。
意識もまたハッキリしない。
(お……れ…は…?ここ……あ、ぁぁ??)
思考が定まらない。
いいや、自分と言うモノが泥と共に渦巻いているのだ。思考というモノが出来ないのは当たり前だ。
「いいや、違う!!!」
アルウェスはそこで『アルウェス』という固有意識を取り戻す。
(はははッ、たまらないなぁ!世界各地の世界創造神話では、この世界は最初は何もなく、泥や混沌と言ったモノであると言われている。まさに!調和神アフラの権能の力か!だが、アフラは世界創造した万物を司る存在ではない!人の想いから生まれた神が世界再創造する力を持つとは思えない。だったら──)
アルウェスは体内にあった魔力を一気に体外へと放出させる。それで生まれた風圧によってアルウェス周辺の泥が吹き飛んでいく。アルウェスの周りの世界だけがこれまで通りのハッキリとした物理世界へと戻る。
「創造神話の再現なんだろ?しかも、この部屋のみを範囲内とした限定再現!」
実際には世界は泥に戻っていない。これはあくまで『再現』。アフラの術が解ければ世界は元に戻るし、そもそも規模が狭い。とはいえ、それでも世界は一時的にとはいえ崩壊させているのだから、調和神という名は伊達ではないということだ。




