最後の砦 4
「もしや貴方……刈り取った魂を取り込みましたね」
その言葉にアルウェスはニヤリ、と口角を上げ、嗤いながら「ご名答!」と叫ぶ。
「これまでこの力は魂を刈り取るだけではないとは常に感じていた。だが、俺一人だけじゃあ真の力までたどり着けないことも分かっていた。だから、メイガス・ユニオンとの接触だ。俺は俺自身を研究対象として差し出し、その代わり成長促進を約束させた。そして刈り取った魂を取り込む事に成功した!魔力は魂から生成される。ならば、人間数十人、数百人の魂を取り込んだ俺は、何処まで行けるモノなのか!!」
ははははははッ!という嗤い声と共に、どんどん魔力は増大していく。
それと同時にアルウェスの肉体、周囲に変化が生じ始める。
魔力はエネルギーの一種であるため、眼で確認しようとするとそれは光として脳が認識するのだが、現在アルウェスの魔力は恐ろしいほど黒く光り始める。
そして、背中の筋肉がまるで生きているかのように蠢き、盛り上がったかと思えば今度は肉が破裂し、血が吹き出る。さらに傷口は広がり続け、そこから飛び出るのは二翼の羽。
だが、鳥のような羽根の生えた翼ではない。それは肉もなければ、皮膚もない。一滴の血も流れない骨だけで構成された不気味な翼であった。
「膨大な魔力による肉体変化……というより、存在階位の移転、と言った所ですか」
といっても、本来は上に移動するのが望ましいものだが、彼はあえて下がってしまったようだ。天使が神を裏切り、堕天し、悪魔になるように。彼は敢えて下がることでその力を増幅させている。
「やっぱり神はその辺りに詳しいみたいだね。あれだろ?物質世界とか、精神世界とか、そういう話だろ?俺も感覚でしか理解していないから、説明しろとか言われても難しいんだけど、魔術師が求める最終地点という話も聞くね」
「……やはり面白い。魔術師でもない、ただの凡庸な身であった貴方が感覚のみとはいえ、厄災の力を通じてそこまで世界を理解しているとは」
神々の計画の中で、最初に行ったモノの一つに人間にこの世界の構造を理解させるというモノがあった。もしも人類がこの世界全てを理解することが出来れば、それは人という存在を超え、新たな界を切り開くことが出来ると考えたからだ。
それで設立された組織こそが魔術学連合である。
良い線まで行く者がいれば、手応えのある結果を出す者もいた。しかし、今まで理解できる者は結局現れることはなかった。
ゆえに、計画を変更し、トーゼツやアナトを中心とした第二の計画を実行中なのだが。
だからこそ、知識もない。興味もないアルウェスがそこに到達しているのがとても興味深かった。
「厄災は元々、悪神の力が漏れ出して生まれた悪魔。その力を継承する彼は、もしや──」
「おいおい、俺の前で考えことか?」
アルウェスは先ほどとは比べ物にならない速度で移動したかと思えば、既にその巨大な鎌の刃は調和神アフラの首にかかっていた。




