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最後の砦

 その頃、一方──


 それは神都の中央にある、調和神アナトの居住地としている窓もドアもない、漆黒の巨大な建物。


 本来は冒険者や魔術学連合の関係者、また調和神アナトから招待された者しか入ることは許されていないのだが、このような異常事態の場合は避難場所として一般開放されることになっている。


 そのため、一階のロビーには多くの避難者たちがいた。


 そう、いた(・・)のだ。


 だが、現在、その一階に今は誰も居ない。


 ただ、そこに広がっているのは、人であったろう肉。目立った外傷はなく、しかし今やそこに心や精神と言ったモノは宿ってなく、魂もそこには存在していなかった。


 そして、その奥にある調和神アフラのいる場所へと通じるエレベーターが起動しており、誰かが乗っているようである。


 「……来ますか」


 調和神アフラはいつもの広く、不思議な空間で何事もないように、ただ佇む。


 部屋もいつも通り。天井と床は研磨された黒曜石のように漆黒、そして床には巨大な魔法陣がぐるぐると機械のように回っている。しかし壁は見えず、そこには永遠と空が広がっている。


 ここだけはいつもと変わらない。不気味なほどに。


 そして、チーン!とエレベーターのベルの音と共に、ドアが開く。


 「おぉ!?聞いては居たが、不思議な空間だな!」


 そこに現れたのは、黒いローブを纏い、死神のような鎌を片手で悠々と持ち歩く一人の少年。


 「貴方が厄災の力を操る者たちの一人ですか、トーゼツから聞いていますよ、アルウェス」


 「ん?俺のことを知っているとは光栄だね」


 「その力は……死の厄災…ですか。それを見るのは万年ぶりですかね」


 死の厄災。それは神話に語られる神代に討伐された最初の厄災。人と神の血を引いた者によって倒されたという伝説の厄災。


 その力を持つのが、アルウェスなのだ。


 「……貴方…やはり──」


 調和神アフラはその眼で見る。


 彼の過去、そしてその未来。そして、今回の事件における真の黒幕を──


 「貴方の現状には同情しますが、これまで貴方が行ってきた事は許されるものではありません」


 調和真アフラが動き出す。


 アルウェスの視界が揺らぎ始める。まるで熱で空気が歪んで見えるように……。

 

 それは、膨大で圧倒的な魔力質量。


 「これが……神の力か…!?」


 これほどの魔力量など、見たことない。いいや、これからも見ることはないだろう。


 「神々の計画のためにも、自分から手を出すというのはしたくはありませんでしたが、仕方ありません。ここまで来てしまった貴方を、抹消します」


 アフラの眼に映るアルウェスまるで蟻を踏み潰すような、人を殺すという感情がそこには無かった。


 常人であれば、恐怖するだろう。しかし──


 「良いねぇ、最高だッ!俺の力で、アンタの方を消滅させてやるよ!」


 そのように嗤い捨て、死神のような鎌をくるくると回し、構える。

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