好転 3
「──が今の状況だ」
特異課の部屋で、トーゼツと同じ説明内容をアナーヒターに述べるベスであった。
「化け物に黒いローブ、厄災……ね。とんでもない状況だな。でも、それよりも──」
部屋を見渡す。
「なんでこんな小さな部屋に数十人も入ってくるの?」
先ほどまでベスとトーゼツしかいなかったこの部屋に、アナーヒターが訪れた途端、多くの者が一緒に傾れ込むように入ってきた。
冒険者ギルド本部には多くの課が存在するが、その中で特異課は固有技能持ちのみが所属を許されているという特殊な課ということもあり、そもそも人数が少なく、規模の小さい課である。
そのため、部屋もそこまで大きくは無い。奴隷船のように人権無視で詰め込めば、五十人は入るのかもしれないのだが……ともかく。数十人という部屋のキャパシティにあっていない数の人が入るのはとても息苦しいものだ。
「そりゃあ、あのアナーヒター様と居れれば安心できますし、我々も団結できますから!」
そのように言うのは、近くに居た冒険者であった。それはトーゼツも見たことあるなぁ、ぐらいの知らない相手であり、名前も知らなければ、職も分からない。だが本部にいるということは、それなりの実力を認められてここに来た冒険者なのだろう。
また部屋にいる他の者も全員、冒険者であり、かなりの実力者が揃っているということだけが分かる。
「ったく、いつもは毛嫌いしている奴らがアナーヒターが居るというだけでここに押し寄せてくるとはな。課長である俺の許可なしに。そんなに俺らは邪魔者か?」
そのベスの言葉に反応する者はいない。
「ちっ、本当にのけ者扱いかよ。ここの課も嫌われたモノだな」
べスは不愉快そうな表情をするが、やはり反応する者はいない。
「……だが、パーティ組んだり誰かをサポートするぐらいならともかく、基本、一人行動だからなぁ。そんな期待されたとしても、皆をまとめるとか、出来ないんだが?」
アナーヒターもまた、自分のやりたくない事、不得意な事に対して期待されているという事を心地よく思っていないようで、そのよう言うのだが
「だとしてもです!」
と言われてしまう。
やはり、高い名声に知名度、それに見合った実力は希望の光となるのだ。
「う〜ん、アナトだったら出来たかもな。だけど、アナトは今、しは……いいや、えっと、アレと戦っていることだし」
支配の厄災と言いかけたが、一応、調和神アフラから黒いローブの集団に支配の厄災関連は公言しないようにと言われているためギリギリの所で言い換える。
こんな天変地異のような状況で重要情報を隠す事に意味があるのか?と思ったりもするのだが、念のためというモノだ。
だが、運が良いと言うべきか。皆が強く反応を示したのは言い換えた箇所ではなく──
「アナト!?彼女も帰ってきているのですか!」
神代の終末者こと、アナトの方であった。




