好転 2
トーゼツの視界に映る一階の様子は、やはり入ってきた時と同じだった。
戸惑い、恐怖する一般市民。情報が錯綜し、動けない冒険者たち。
ここに武力が集まっているからと言って安全では無い。もしも、厄災がこちらに侵攻してくれば、狂気によってほとんどの者が発狂し、生き残っても憤怒の厄災に殺される。それから逃げ切れたとしても、街には化け物だらけだ。
だからこそ、この神都から助け出したい。もしも、トーゼツに出来るのであれば、彼らにとって一筋の光として導いてあげたい。
だが、今の自分にはどうすることも出来ない。
悔しい気持ちを抑え、ごった返す人混みの中を通り、外へと出るために出入り口のドアを目指す。
その時、ガチャリと出入り口のドアが開き、中に入ってくるのは──
「予想通り、混乱してるな」
尖ったその耳はエルフの特徴。緑色の髪に整った顔。トーゼツにとっては馴染みのある相手であった。
「アナーヒター!」
その声に冒険者、市民が一斉にドアの方を見る。
「おっ、やっぱりいるか。トーゼツ、大丈夫そうで良かっ──」
「うおおおおおおッ!」
「あの水王の術聖、アナーヒターだッ!!」
「これで助かった!」
ギルド内のあちこちから安堵と喜びの声が響く。
この反応はアナーヒターが術聖という、魔術師の頂点に立つ者だから、というのもあるのかもしれない。だが冒険者ギルドにも、魔術学連合にも他の術聖は何人かいる。だが、この反応は別の要因からだろう。
それは、アナーヒターがアナトと一時期、一緒に活動していたというのがあるだろう。アナトが実績を挙げ、名声を高めると同時にアナーヒターの名もまた広まっていった。きっと多くの者がアナトに引けを取らない魔術師、と思っているだろう。
だからこそ、彼女を希望の光として見ているのだ。
(これで、少しは状況が好転するか?)
自分ではどうにも出来なかった状況を、アナーヒターの登場で変化が起きた。その事にトーゼツもまた心の中で大きく喜ぶのであった。
「おっ、おおっ!?何だ何だ?よく分からないが、とりあえずちょっと行かせて!」
アナーヒターへと多くの者たちが群がってくるが、それを躱し、避け、退けながらトーゼツへと近づく。
「今の状況を聞きたいが、ここじゃちょっと難しいな。一旦、外に出るか?」
「いいや、二階の特異課なら人が少ない。そっちに移動しよう」
そしてトーゼツは踵を引き返し、アナーヒターを特異課の部屋へと案内をする。




