好転
神都内、冒険者ギルド連合本部では、まさに戦々恐々であった。
避難してきた住民が一階にごった返しており、何が起こっているのか分からないうえ、外から聞こえてくる爆音や悲鳴と言った戦いの音で恐怖していた。そんな彼らを落ち着かせて沈めるためにギルドスタッフも大忙しの様子。
冒険者も、ギルド内にはもちろん居るのだが彼らもまた困惑していた。
街中に溢れる化け物に、突如として現れた厄災。住民の避難も完璧ではなく、まだ取り残された者だっているだろう。そもそも街のあちこちにある避難所も安全では無い。本当は神都の外へと避難させるのが良いのだろうけれども、この状況ではそれも難しい。
多くの冒険者が一丸となって住民を守ればいけるのかもしれない……が、先ほども述べた通り冒険者たちも困惑しているこの状態では絶対に出来ないだろう。
そんな中、二階にある特異課の部屋でベスに神都の状況をトーゼツは聞いていた。
「と言ったのが今のところ俺たちの中で把握出来てる所だな」
「……とんでもねェことになってるな」
トーゼツは神都がかつてないほどの脅威に襲われていると改めて感じる。
「んで、アフラ様からは?」
「何の連絡も無い。こっちからも何人か冒険者を派遣しているが帰ってくる奴もいなければやっぱり連絡も無い。ったく、全員化け物に殺されたか。調和神アフラの方でも何か起こっているのか。よく分からん。だがずっとこうしているわけにもいかん。特異課にいる俺の部下の半分は住民の確保、避難と共に情報収集させている。あのクソにみたいなポットバックにも動いてもらっている。さらに魔術学連合の方にも協力を仰いでるんだが……」
やはり、情報も不確か。何が起こるのかも予測がつかないこの場で正しい判断どころか、冷静な人間なんてなかなかいない。だからこそ状況が一向に良くならない。
トーゼツはもちろん、ここに居る全員をこの地獄と化した街から救い出したいという想いで溢れる。
しかし……。
(もし姉貴がいたら、みんな動いたかもしれないけど──)
アナトは戦士であれば誰もが知る存在であり、多くの者が憧れる者。人に与える影響力はまさに神に等しいモノだ。どんな混乱した状態でも、不透明な環境でも、アナトという信頼できる力と迷いの無い彼女の眼に多くの者が動き出すことが出来るだろう。
まさに、鶴の一声と言える。
だが、自分にはそんな事できない。
力だけで言えば自分は姉に決して劣っていないと思っている。だけど、職を持たず、知名度もない。アナトの弟だからと言って自分の声に耳を傾けてくれるだろうか?
否。
自分の意見で動く者はいないし、きっと反対意見を言われて終わりだ。
だが、何もしないわけにもいかない。
トーゼツは立ち上がり、部屋から出ようとする。
「おい、何処へ行くつもりだ?」
「俺が調和神アフラ様のところへ行く。少しでも状況を好転させたいし、より分かることもあるかもしれない」
そう言って、トーゼツは一階へと降りていく。




