再戦 7
アナトとの距離を取ることの出来たサルワは自身の肉体の細胞を『支配』し、治癒能力を向上させる。そして全ての傷を癒し、出ていったしまった血の量をすぐ生成する。
一連の流れは全て一秒以内で完結しており、あっという間であった。
「……本気を出していないっていうのは本当だったようだな」
たった一秒という短い間での再生。治癒魔術よりも異常な回復速度だ。医療や人体に豊富な知識を持った術聖であれば再現可能かもしれない。だが、そんな人物、アナトが知っている限りエイルぐらいしか存在しない。
また上級レベルの術の複数使用でようやく治せる傷を、『支配』の能力で治癒しているからなのか。魔力の消費が少ないうえ、肉体や脳に一切の負担がかかっていないようだ。
「……厄介ね」
この場合、サルワを倒せる方法は三つ。
一つは治癒が追いつかない速度でダメージを与える。だが、一秒という短い時間で治癒するため、これは現実的ではない。
二つ目は一撃で殺すことである。心臓を貫く、首を切断する、などの致命傷はダメだ。何度もいうようだが、一秒という治癒速度では簡単に回復されてしまうからだ。肉体を一瞬で蒸発、消滅させる。思考できないよう脳にダメージを与える事が必要。
三つ目は可能性の話であるうえ、一つ目とかなり被る話になるのだが、きっと『支配』の能力も魔術のように脳で計算、思考して発動させている。つまり脳にある程度の負担がかかっていると思われる。そして戦いの中で魔力で身体能力向上させながらも術で攻撃、防御を取り、『支配』の能力も行使する。これらの行動に対して、脳の思考は追いつくのだろうか。
否、追いつくわけがない。
つまり、サルワの脳に負担がかかり、思考が鈍るほどの速度、パワーで攻撃することである。
(まだ全部の手の内を見たわけじゃないから油断は出来ないけど、ぶつかって分かるのはやっぱり私の方が圧倒的に上だということ。だったら、このまま力づくで詰める!!)
サルワは槍を突きの構えで持ち、目にも止まらぬ速さでサルワめがけて突っ走る。
「ゴリ押しで来ると思っていたよ!」
サルワはすぐさまバックステップで距離を取ったかと思えば、先ほどまでサルワの居た地面が盛り上がり、何十本もの剣がアナトに向かって生えてくるではないか。
アナトであっても、さすがにこのスピードで突っ走っているとすぐに止まることは出来ない。
まだまだ剣は地面から伸び続けており、このままではアナトに突き朝さってしまうだろう。
「串刺しにでもなっていろ!」
しかし、アナトは構を解くことなく、その動きに迷いはなかった。
なんと、そのまま山のように生えてきた剣をいとも簡単に全て突き壊し、そのままサルワの胴体にめがけて鋭い槍先を突き刺してく。
「ちぃッ!まじ…か!?」
驚きの声に、苦痛の表情を見せるサルワ。
それに対しアナトは次にサルワへと蹴りを入れ、態勢を崩させる。その間に槍を抜くと素早く右から左へと真一文字に薙ぎ払う。
だが、持っていたセプターでその槍を受け止め、鍔迫り合いのような拮抗状態へと入る。




