再戦 5
ミトラは指輪に魔力を送ると空間に穴が開く。そこに手を突っ込み、一本の杖を取り出す。それは魔鉱石が装飾された、膨大な魔力が蓄積されている魔術の杖であった。
その杖はふわふわと宙を浮き、ミトラへとついていく。
「さて、今回は最初から本気でいくとするか」
ミトラは敵であるサルワを睨みながら、槍を構え、杖を宙に浮ばせる。
「おぉ、怖い怖い。私も全力を出すべきかな?」
サルワもまた魔力を両手に集め、一本の長い杖、権力を示すセプターのようなモノを具現化させる。
「私の目的はお前の足止めだ。出来ればぶち殺すことだがな」
そのような軽口を叩くが、ミトラは一切、サルワに対して脅威を感じることはない。
戦う時に感じていた異様な感覚の種と仕掛けを既に暴いているからだ。
「『支配』の厄災……か。やっぱり厄災の力って便利だよな。その力を使って私の魔力の流れを『支配』しようとしたな?」
絶大級の術は人類が使える術の中では最大級のモノ。絶大級の術から身を守るには同じく絶大級の術しかないと言われるほど、絶大級とは凄まじいモノなのだ。
まさに、その職の高みに居る者だけが許される術。
それを魔力を纏った剣だけで押し返すというのはあまり考えられない。
であれば、何かしら種や仕掛けがあったと考える方が納得がいく。
「さて、それはどうかな?」
サルワは否定も肯定もせず、嗤いながら答える。
だが、その態度と発言からしてただ誤魔化しているようにしか見えてこない。
「まっ、そんな事はどうでも良いか。その程度の姑息な手じゃあ勝てるわけがないからな」
「くっ、くくくく!余裕そうだな」
「そりゃあそうだろ。お前は一度、惨めに私から逃げたんだからな」
「言ってくれるじゃあないか!」
そのサルワの怒りと共にアナトは地面ごと上空へと一気に吹っ飛ばされる。
一体、何が起こったのか。
魔術……ではない。周囲に落ちている建物の瓦礫や足元の地面と一緒に飛ばされていることからアナトのみを狙った限定的なモノでもない。ただ、下からアナトでも逆らえない凄まじい力が襲い掛かってきたことだけが分かっていた。
これもサルワとの戦いで何度も感じていた感覚だ。
(一体、何を『支配』して操作している?)
空気の流れでも操作しているのかもしれない。風、というと弱く聞こえるかもしれないが、竜巻などは時には家屋を吹き飛ばし、人を跡形もなく消し去ることだってある。空気を操作し、風を発生。それでアナトを周囲のモノごと吹き飛ばしたのかもしれない。
宙に舞う瓦礫や地面で視界が悪くなり、サルワの姿が見えなくなる。
アナトは空中にいる最中でも強く構えた態勢を変えることなく、ただサルワからの反応を待ち続ける。こういう場合は自分から下手に動くと余計に相手の術中にはまったり、事態を悪化させる場合が多い。相手の動きに合わせた方がこちらも対応しやすい。
下から来るか、左右か、前後、上からかもしれない。
アナトは冷静に周囲を観察し、警戒を続ける。




