刃の厄災 3
「はぁ、はぁ!」
彼女は肩を大きく揺らし、呼吸を荒くさせながらも、頭の中では冷静になろうとしていた。
(呼吸を整えるんだ。まずは、一度に深い呼吸をする!)
「ふぅー…はぁー、ふぅー…はぁー」
彼女の呼吸は徐々に落ち着きを見せる。
(次により正確に体の負傷を確認!)
痛いのを堪え、攻撃の当たったであろう箇所を何度も、丁寧に触る。
やはり、これはかなりの重症だ。しかし、動けないレベルではないうえ戦闘続行も可能だ。
彼女は剣士だが、彼女は一人の戦闘に慣れている。
大抵、冒険者というのはパーティを組むものだ。しかし、剣聖というものになれば、彼女の戦いについていける冒険者の方が少ない。それゆえに、彼女は最低、一人で何でも出来るように魔術を身につけている。
「中級魔術〈ミドル・ヒール〉」
ほとんどの治癒系の魔術というのは、体の治癒能力を向上させることで、傷を癒している。
彼女の使った魔術もまた、同様のもので、徐々に傷つけられた細胞から新しい細胞へと入れ替わり、折れた骨もまたどんどん作り替えられていくのが実感出来る。
しかし、これは中級レベルの治癒。
ある程度は治せるが、完治まではいかない。
強制的に新たに生み出された細胞は脆く、また強制的に作り替えられた骨は簡単に折れやすい。
しかし、痛みは引くし、治癒出来ているのも事実。
さらに驚くべきなのは、一連の動きにかかった時間である。
それは、十秒もかかっていなかった。
「ほう、我の攻撃こそ耐えきれなかったが、そこからの立ち直りが速いな。さすがは、剣聖か」
刃の厄災はその剣を片手で、軽々しく振り回す。
「いっつも一人だからね。何かあってもすぐにリカバリー出来るできなくちゃね」
しかし、剣聖に成って以降、彼女がこれほどのダメージを負うことなどなかったため、実践で回復魔術を用いたのは初めてであった。
だが、これらのことでミトラが焦ることはなかった。
問題は—
(ここで問題なのは一撃でやられたことでもないし、最強の攻撃を耐えられたことじゃない……。攻撃が見えなかったことよ。奴の攻撃を目で捉えきれない限り、防ぐことも避けることも出来ない!)
威力がただでさえ、こちらよりも上だというのに、速度も異常なものであるとなれば―
(でも、一撃喰らっても大丈夫。致命傷ではあるけど、即死級の攻撃じゃないわ。当たって砕けろでいくしかない!)
ミトラは魔力で肉体を覆う。それにより、身体能力が向上されるうえに魔力が鎧のような役割をして、より相手の攻撃威力に耐えきれるようになる。
「我との実力差を分かったはずだ。それでもなお、戦う意思が消えぬとは……。ふはは、その眼差し、とても良い。素晴らしいぞ、良い戦士の証拠だな」
それは楽しそうで、嬉しそうに……大剣を構えなおす。
「諦めず、思う存分、かかってこい!」




