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戦々恐々 2

 またまた同時刻、そこはサウリヒムから遥か遠い異国の地。


 西の西、最果ての西にある神都。


 その街の様子もサウリヒムとは程遠いモノだった。時は朝、空は晴天、人々は活動を始めようとしている。調和神アフラという最高神の足元で。


 しかし、その神都を守っている巨大な防壁の上、そこに不安な影が二つあった。


 黒いローブを纏った男と、もう一人は長く美しい金色の髪をした女。しかし、明らかにソレは人間ではない。


 目の色がまるで地獄から這い上がって来た悪魔のような、人の血の色をした赤い目。口は吸血鬼かと思うほどに歯が伸びている。そして、頭からは二本の角が生えている。その角は爬虫類、トカゲのようなものであった。


 その姿、まさに──


 「まさか、お前らに力を貸すことになるとはな」


 支配の厄災であった。


 「そう言いながらも、結構、ノリノリじゃ無ェのか、支配の厄災さんよォ」


 「まぁ、こんな面白い事を逃すわけにはいかないからな。あと、私はもう支配の厄災じゃない。厄災は封印された父、悪神から漏れ出た力が具現化した悪魔。本能のままに動き、破壊するだけ。もちろん、長い年月をかけて私含めた厄災は自分の意思を獲得した。だが、本能が意思に動くのを許してはくれなかった。だが!私は違う。こうして自分の肉体を手に入れ、自分の意思のまま生きる事に成功したのだ!であればもう厄災ではない。新たな名が必要だろう?」


 「んじゃあ、なんと呼べば良いんだ?」


 「そうだな……サルワとでも呼んでくれ。さて、そんな話をしていると来たぞ?」


 サルワと名乗った支配の厄災の視線は上空にあった。


 そこには一つの紐が浮かんでおり、端と端が結んであり、一つの輪となって広がっていた。


 「あれがお前らの盗んできた神代の遺物(アーティファクト)の一つか、面白い」


 サルワは一目見てあの紐の効果を理解する。


 魔法陣、詠唱無し。距離、大きさ関係なくあらゆるモノ全てを瞬時に指定先へと転移させるという移動、運搬手段としては破格の能力を持つ魔具。


 その輪から飛び出してきたのは、狂気にまみれた怪物。


 そして、サルワの兄弟とも呼べる存在。


 憤怒の厄災であった。


 それは、平和な街に堕ちていく。


 そして本能のままに暴れ始め、街を破壊していく。



 また、調和神アフラも厄災をすぐさま感じ取り、何が起こったのかを一瞬で理解する。


 「やってくれましたね。盗んだ神代の遺物(アーティファクト)でこのような事態にするとは。しかも、アナトのいないこのタイミングを狙いましたか」


 調和神アフラは魔法陣を展開し、冒険者連合本部へと連絡を入れる。


 この状況を対処させるために。


 

 この最悪な状況を嗤うローブの男。


 「クククッ!これまで調和神の庇護下で守られてきたこの神都。きっと今日からは、地獄と呼ばれるようになるかもしれないな!!」


 神都の崩落が、今から始まる。

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