隠された真実 20
その頃、一方。メイガス・ユニオンの北の実験区では……。
「こっちには居たか?」
「いいや、見てない。荒らされた形跡も無かった」
そのように廊下で会話しているのは警備兵として巡回している魔術師二人であった。
「ったく、相手の目的は何なんだ?」
「さぁな。そもそも本当に侵入者が居るっていうのもまだ分かっていないって話だ。学生区の書庫前で激しい戦闘の形跡と意識失って倒れている警備兵が発見されただけらしいし」
「ったく、全然情報が無いな。身内の可能性もあるのか」
メイガス・ユニオンも一枚岩ではない。
もしかしたら裏切り者が現れたのかもしれないし、そもそも警備兵の中に敵対組織が紛れ込んでいた可能性だってある。最近は謎の黒いローブの集団が徘徊している噂だってある。実験区にだって外部に漏れると色々面倒なモノだってあるし、開発して産み出された魔獣だっている。ソレらの一部が逃げ出したことも考えられる。
「どちらにせよ、より警戒度を上げて巡回しないとな」
そう言って、仕事の会話をしながら一つのドアを通り過ぎる。そこは実験区の中でも倉庫として扱われている部屋で重要な部屋ではない。しかし、そこには侵入者が居た。
はぁ……はぁ……と息切れしながら汗をかいて潜んでいるのはミトラであった。
(あの警備兵の会話からして、トーゼツも警備兵にバレて戦闘してしまったのね。でも、私に関する情報は無いのね。あの男の死体はまだ見つかってないのかしら?)
だとしたら、運が良い。
警戒度は上がっているし、駆り出されている警備兵は多くなっている。しかし、こちらの目的がバレていない上、さらに侵入者がいるということもバレていない。
こちらが何者で、どのように動いているのか。不明であればあるほど、相手はどのように対策すれば良いのか分からない。ならば、まだ動きやすい。
(様子見てこの部屋から移動して……早くトーゼツと合流して逃げなきゃね)
と考えているその時だった。
「チュー!」
その可愛らしい聞いた事のある鳴き声……これは…
「キューソ!?」
キョロキョロと辺りを見渡すと、地面はタッタッタと軽快に駆けてミトラに近づく。ミトラはキューソを手のひらに乗せる。
そこでようやく気付くのだが、キューソの体に紙が括りつけてあった。
「トーゼツが寄こしたのね」
紙をほどき、広げて読み始める。
(学生区のトレーニングルーム……ね。学生区まではそんなに遠くないし、今、人の気配は感じられない。向かうなら今のうちね!)
そのように判断したミトラはキューソをズボンのポケットに入れてあげると部屋から飛び出し、トーゼツのいるであろう場所へと向かい始めるのであった。




