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隠された真実 16

 倒れているシャルチフにさらに追い詰めるようにキューソが服の中へと入って彼の体を刻んでいく。


 「ッ!」


 小さな獣のひっかき。しかし、魔力を纏ったその爪で確実に肉を切り裂き、ダメージを与えている。それに先ほど、首を掻き切られたことで大量な出血が止まらない。


 痛覚遮断の魔術で痛みは感じない。だが、このままで多量出血で意識を失うのも時間の問題だ。


 一刻も早く治療魔術を使用しなければ──!


 「させるかよォ!!」


 倒れているシャルチフの顎に向かってトーゼツは思いっきり蹴りを入れる。ガクン、と強い衝撃が脳を揺さぶり、意識を攪乱させる。


 (くっ、脳震盪か……!)


 術が発動できない。


 立ち上がろうにも足が震える。


 「まだまだッ!!」


 トーゼツはさらに蹴りを入れようとするのだが


 「舐めるなァ!」


 シャルチフは体を巡らせていた魔力を一旦、全て炎に変換。それはまさに爆発したかのように炎が燃え広がろうとする。


 「危ない、キューソ!!」


 魔力の動きを事前に見ていたトーゼツは咄嗟に手を伸ばし、まだシャルチフの中で暴れていたキューソを回収する。その瞬間、熱風によってまたもや体を吹っ飛ばされてしまう。だが、今度は壁に叩きつけられることなく、上手く態勢を整えて着地する。


 「はぁ……はぁ……」


 シャルチフは完全に魔力を喪失させたようだ。より正確に言えば生成していた魔力全てであり、まだ魂から魔力を練り上げること自体は可能だろう。


 だが、戦闘可能にするほどの魔力量を練るのにも数十秒と時間がかかる。生きるか、死ぬかの戦いの中。その数十秒は決して短い時間ではない。


 トーゼツは魔力回復する時間を許すことはない。


 トーゼツはもう残り少ない魔力を拳に乗せて殴り掛かる。


 しかし、シャルチフの戦闘手段が残っていないわけではない。


 まだ……魔力を変換して生み出した、燃え広がった炎が残っている。


 炎は生きているかのようにシャルチフの周囲に集まり、まるで流体のような動きで魔力の代わりにシャルチフの体をぐるぐると巡り始める。


 「ったく、愚か者とみて足元をすくわれたな。最初から本気でいけばこんな事にはならなかったよ。本当に、面倒な人間だ」


 「お前もな。年寄りと思って甘く見ていたよ」


 二人は拳を構える。


 武器はない。術はもう使えない。


 「キューソ、お前は隠れていてくれ。ここからは俺がブチ倒す!」


 そうして小さくかわいいネズミは「チュー!」と鳴きながらトーゼツのズボンのポケットへと潜り込む。


 「人間如きが、思い上がりやがって!」


 シャルチフは強く拳を握りしめ、トーゼツへと殴り掛かる。


 それに対し、トーゼツもまた正面から殴りに向かう。


 二人の激しい殴り合いが今、始まる。

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