隠された真実 11
どうやら、二人は会話しているようだ。トーゼツの耳に話声が聞こえてくる。
一体、何を話しているのか。それを知るために聞き耳を立てて意識を集中させる。
「爺さん、書類は全部でこれだけか?」
若い男は老人のエルフへと尋ねる。
彼の足元には木箱があり、そこには何枚もの書類が束となって入っていた。
「あぁ、それだけさ。あと、二人だけとはいえ、私は上司だ。爺さんと呼ぶのは止めろ」
「はいはい、分かったよ」
男はだるそうに答えながら木箱を抱える。
元々は紙切れではあるが、それも重なれば厚く、重くなるのは必然。木箱いっぱいに入っているのを見ればその重さが尋常ではない事ぐらい理解できる。
しかし見たところ、魔力による肉体強化もしていないその男は軽々しくその木箱を持ち上げる。
「しかし、よく冒険者連合の査察を受け入れたな」
「まぁな。我々が無関係であり、無実であると納得させられないにしろ、そういう努力はするべきだ。そうすればまだ正面から冒険者連合と戦争になる事はあるまい」
「戦争を避けているのか?いっつも冒険者ギルド連合を目の敵にしているアンタが?」
「私自身は戦争したいと思っているさ。だが、組織として考えれば避けるべきなのは当然だ。勝つ見込みは少ない。それにアイツらが上手くやれるとも思えんしな。成功すれば無駄な事をやっただけ。失敗すればやってて正解だった。そういう話だ」
「なるほどね。しかし、ライバル潰し良いがあっちの計画はどうなんだ?」
「順調……とは言い難いが成果も出ている。机上の空論を超えて現実化するのもそう遠くない」
「そうですか……んじゃあ、お喋りはこのぐらいにして俺は行かせて貰うよ。この書類をもっと安全な場所に移動させないといけないからな」
「任せたぞ」
そうして男は肉体に魔力を纏わせると同時に足元の床に魔法陣を展開。それから数秒後には一瞬で何処かへと消えていく。
どうやら転移系の魔術で移動したようだ。
(くそっ、どう見てもあの箱に入っていた書類が目当てのヤツじゃないか!?)
会話の内容からして絶対、そうだ。
チャミュエルの予想は当たっていたと同時に、一足遅かったようだ。
(どうする!?今からでもあの男を追いかけるか……!?)
まだあの男が纏っていた魔力の痕跡が残っている。そこからどのような転移魔術を使ったのか。解析して追っていく事が出来るかもしれない。
魔力の痕跡を調べるためにも部屋に入りたいが──
(あの老人……まだ部屋に残ってるな)
ここは諦めて一度、退くのも良いかもしれない。
それにチャミュエルは嘘をついていなかった。この時点で彼女の言っていた事はある程度、信用出来る事が分かった。
「さて、ここを──」
学生と一緒に実験区まで引き返そうと言おうとしたその時
「危ない!!」
学生はトーゼツを突き飛ばす。
その瞬間、ドアを突き破って何かが飛び出す。そして目の前に赤色が広がり、学生が熱に包まれる。




