隠された真実 10
トーゼツはきっと、この学生の助けになることは出来ない。
それは敵対組織に所属している者だからとか、学生に対して興味がないとか、そういう話ではない。
これは彼にとっての信条に関わる話だからだ。
チャミュエルという一人の尊敬心を大切にして彼女を信じるのか。それともメイガス・ユニオンに対する忠誠心を重んじて行動するのか。
だからこそ、トーゼツは学生に対して自分の考えや、ハッキリと答えることはない。
「俺にとってはお前の事なんでどうでも良い話だが、一つだけ言ってやる」
それでも少しの助言をあげる。
敵でも、誰でも……トーゼツの基本は人を助ける事だからだ。
「誰を信じるのかは勝手だが、自分の想いだけには裏切るな」
「自分の…想い……」
「そうだ。社会とか、この世っていうのは学問じゃないんだ。完全に正しい事なんて無い。チャミュエルって奴も正しいし、組織に忠実なのも正しい。だけど、人によってはそれが間違いに見えてくる。基準になるモノなんて存在しない。それでも自分のやりたい事、大切にしたい事……それらの想いだけは絶対で、それだけは信じなくちゃいけない。じゃないと、自分の居場所が分からなくなって、あとは死ぬだけだ」
そのように話していると、どうやら目的地の部屋へと着く。
そこは『書保管庫』と書かれたプレートがドアにかけられていた。
チャミュエルの話に聞くと、この部屋には魔術書が保管されており、貸し出しが可能になっている。いわば魔術書限定の図書館ということだ。
その書保管庫は大きく三つに分かれているという事だ。
一つは魔術の基本理論や低級、中級と言った簡単な内容の魔術書をまとめた基本魔術書庫。
二つ目は上級魔術や基本理論を発展させた応用学が記載されている書をまとめた専門魔術書庫。
そして最後、神代から伝わる秘奥や人類が触れてはいけないとされている禁断の書。それは基本、貸し出し不可能。入るのにもメイガス・ユニオン会長含め、幹部やチャミュエルのような優秀な戦士、複数人の許可をもらってようやく入ることが許されるという禁書庫。
そしてチャミュエルはこの禁書庫の中に黒いローブに関する書類を隠しているのではないか?と考えているようだ。
「さて、目当てのモノがあると良いんだが……」
トーゼツはゆっくり、ドアノブに触れ、ドアを開けようとするのだが
「どうしたん──」
「静かに。中に誰かいる」
そういって、トーゼツは少しだけドアを開けて中の様子を覗いてみる。
そこに居たのは二人の男。
一人は老人であった。エルフの老人であるため、きっと数百年は生きているのだろう。その存在もまさに貫禄があるように見える。
もう一人も当然の如くエルフだ。そっちは見た目は自分と同じくらいだが、きっと同い歳ではないのだろう。そして、この威圧感、チャミュエルや姉であるアナトと一緒の雰囲気。
(四大聖レベルか……!)
今日は異常なほど強者との遭遇率が高いな……そう思いながらもっと書庫の中を覗くためにドアをもう少し開ける。




