出陣 4
次の日。
その日は朝から街中が騒がしかった。
やはり、ミトラが厄災討伐へ出陣するということで、再びお祭り騒ぎになっていたのだ。
しかし、それは希望を託すためのお祭りではない。これが最後の楽しい時間だと、覚悟を決めたような雰囲気を纏った、嬉しくも、どこか寂しい賑やかさであった。
だが、ミトラはそんなお祭り状態でも、気持ちが揺るぐことはもう無かった。
大通りを歩き、国境の外へ向かって歩いていく。
彼女を見ては、多くの人が声をかけてくれる。『頑張れ!』、『この街を救ってくれ!』、『アンタなら厄災を倒せるぞ!!』と。それは、彼女の事を信じてか。または、自分が、友人が、家族が生き残るために呼びかけるのか。それとも―
どちらにせよ、彼女にとっては些細なことだ。
トーゼツから教えてもらった諦めないという、シンプルな答え。
そう、世の中は複雑で……しかし、シンプルに捉えることが重要なのだ。
どんな理由であれ、彼らは私に助けを求めている。そして、可能性は少なくとも、勝ち、彼らを助ける可能性を私は持っている。
気づけば、彼女は国境の外へ出る門の前へと立っていた。
兵士たちが剣を掲げ、その出陣を喜び、勝利のための祝福を送っている。
ここから真っすぐ、三十キロ先に厄災がいる。
彼女の体力、運動神経……それらから考えて、彼女が厄災と対峙するのは一時間弱。
ここを出れば、もう運命の分かれ道はすぐそこ。
それでもやはり、彼女の気持ちは変わらない。
彼女は自分を奮い立たせてくれた一人の冒険者、戦士へと敬意を払って、つぶやく。
「はは、そうだな。トーゼツ。君の言う通り、私は前を向き進む、ただそれだけだ!」
国境の外、その一歩を踏み出す。
もう何度も見た国境の外の景色。来るときと違った雰囲気を感じるのは、きっと自分の心構えが変わったからなのだろうか。
彼女は、その強く放つ狂気のその先へと一歩、また一歩と軽い足取りで向かっていくのであった。
「ミトラは行ったな」
それを防壁の上から見送っているのはトーゼツとメユーであった。
「メユー、やっぱアイツは厄災に打ち勝てると思うか?」
トーゼツはメユーへと質問する。
彼女は今のトーゼツよりも実力は上であり、冷静に、そして完璧と言っても良いほどの分析を行える人物だ。だからこそ、そのメユーの頭脳と実力を信じてそのように問いたのだ。
そんな彼女の言葉は―
「 」
残酷で、無常なものであった。
「そうか。メユーがそう言うんだったら、そうなんだろうな。俺はそう思わないけどな。俺だって夢と理想だけでここまで来たんだからな」
トーゼツがここで彼女の事を否定するようであれば、自分を否定するようなものだ。しかし―
「まっ、せっかくだ。メユー、付き合ってくれるよな!」
「当初から一緒だって言ってたでしょ?トーゼツとなら何処までも付いていくし、絶対に守ってあげるんだから!」
「言質取ったぜ!っしゃ、いっちょ行くか!」
そうして知らないとこで、トーゼツとメユーも動き出すのであった。




