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隠された目的

 コツ、コツ、コツとメイガス・ユニオン内部の実験区の廊下を歩く一人の魔術師。


 実験区で働いている研究者の服姿、雰囲気ではない。明らかに戦う事を想定した服装で、警戒しながら歩いている事から巡回中の警備兵であるのが察することができる。


 その警備の方へ向かってきているのは二人の少年。


 一人は白衣を着ているが、研究者としてはまだ若すぎる。学生のようだ。もう一人の方も学生のようで、しかし杖を背中に背負っている事から研究者志望の学生ではないようだ。


 「少し止まれ」


 警備兵が二人に声をかける。


 「どう……しました?」


 白衣を着た少年が少し動揺しながらも、警備兵の言う通りに歩みを止める。


 「そんなに怯える必要はない。君たちは学生だろう?どうしてこんな場所にいる」


 「えっと……私たちの教室を担当している先生がここの生命実験室の教授も務めていて…教授に薬品の入った試験管を運んでくれと頼まれて…………」


 「俺はその運ぶのを手伝っていただけ。もう終わったので帰るところなのですよ」


 もう一人の少年は堂々とした態度で白衣の少年の言葉に補足をつける。


 「そうか……お疲れ様。早く帰ると良い」


 そうして警備兵は二人が来た道を進んでいく。


 「……はぁ…バレなくてよかった」


 白衣の少年はホッと安堵の表情になる。


 「なんでお前が緊張しているんだよ」


 姿は明らかにエルフだ。しかし、その声ははっきりとトーゼツのものであった。


 「お前がいたおかげで警備兵の警戒がなかったな。おかげで幻影魔術で作った姿も見破れなかったぜ。だが、他の警備兵に遭遇した時、一発でバレる可能性だってある。さっさと事務区へと向かうぞ」


 二人はそのまま足早に事務区のある西へと歩いていく。


 その最中


 「結局……私たちはどうなっちゃうんでしょうか?」


 白衣の少年は恐る恐る訊いてくる。


 「そりゃあまだ分からんね。でも、何度も言っているが君たちを傷つけたいわけじゃない。と言っても抵抗するのであればそれなりの対応はさせて頂く」


 その対応というのも、強制的な記憶改竄であったり、死なない程度に意識を奪ったりする程度の話。それ以上の事……例えば骨を折るなり、指を斬り落とすなり、そんな無駄に痛みを与える事は絶対にしない。


 「まっ、この状況から解放されるのはまだ先だと思っていてくれ。さっきみたいに警備兵からの隠れ蓑になるし、この建物の案内役としての仕事もある。それさえ終わればちゃんと解放するから、それまで仲良くやろうや」


 「……はい」


 そのように話しているうちにどうやら目的地である事務区へと入ることに成功いたようだ。


 というのも、明らかに雰囲気が変化している。


 あんなに薬品の匂いと至る所から感じる嫌な魔力の気配。それが今は一切、感じられない。


 「つ、着きましたよ。この部屋が記録保管庫です……」


 白衣の少年は一つの扉の前でその足を止める。


 ドアをゆっくり開けて中を覗いてみる。そこは大きな棚がいくつも並んでおり、綺麗に書類が詰め込められていた。中の様子としては部屋には灯りがついておらず、とても静かであった。


 「どうやら誰もいないようだな。好都合」


 そうしてトーゼツと学生の二人は部屋の中に入る。

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